注意欠陥・多動性障害(注意欠如・多動症、ADHD)ー診断と治療

はじめに

職場や学校で約束やしなければならないことを忘れることが多かったり、会議やレストランに長時間座って居るのが苦手だったり、時間をうまく管理出来ず、大変な思いをしてきたという方がいらっしゃるのでは無いでしょうか。そのような方の中には、注意欠陥・多動性障害(注意欠如・多動症、ADHD)の方がいらっしゃるかもしれません。その様な方のために、ここではADHDについてご紹介したいと思います。この記事を読む事で、ADHDの特徴や診断方法について知る事が出来ます。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

注意欠陥・多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)とは

代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth Edition, DSM-IV)に掲載されていた注意欠陥・多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)は、最新版のDSM-5においては注意欠如・多動症と改名されています。

注意欠如・多動症は、不注意および/または多動性-衝動性が顕著なことを特徴とする疾患で、遺伝的要因と環境要因など多様な因子が発症に関与すると考えられています。

その症状は幼少期より認められ、多動性症状は加齢に伴い目立たなくなると言われていますが、注意欠如・多動症の約半数は成人になっても何らかの症状が持続すると言われています。

自閉症スペクトラム障害やうつ病など、様々な疾患を併発しやすい傾向があります。

ADHDの診断

DSM-5に掲載されているADHDの診断基準をご紹介します。

A. (1)および/または(2)の様な特徴を持つ、不注意および/または多動性-衝動性を症状とする疾患です。

(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続している(17歳以上では少なくとも5つ以上の症状が必要)。

  • しばしば不注意な間違いや見落としをする。
  • 集中し続けるのが難しい。
  • 話しかけられた時に、聞いてない様に見えることがある。
  • 指示に従えず、言われたことをやり遂げることが出来ない。
  • 一連の作業を順序立てて行うことが難しい。整理整頓が出来ない。
  • 根気強く取り組む必要がある課題を避けたり、嫌ったり、いやいや行ったりする。
  • 持ち物を無くす。
  • 気が散りやすい。
  • 忘れっぽい。

(2)多動性-衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続している(17歳以上では少なくとも5つ以上の症状が必要)。

  • 手足をそわそわ動かしたり、もじもじしたりする。
  • 席についていなければいけない状況で、席を離れてしまう。
  • やってはいけない状況で、走り回ったり、高い所に登ってしまったりする。
  • 静かに過ごすことが出来ない。
  • 常に動いていて、じっとしていることが出来ない。
  • 喋りすぎる。
  • 質問が終わる前に答え始めてしまう。
  • 自分の順番を待つのが苦手。
  • 他人の妨害をしたり、邪魔をしたりする。

B. 不注意または多動性-衝動性の症状のうち幾つかが12歳以前から認められた。

C. 不注意または多動性-衝動性の症状のうち幾つかが2つ以上の状況(家庭、学校など)で認められる。

D. これらの症状が、学業や仕事の妨げになっている。

A~Dの全てに当てはまる場合、注意欠如・多動症の可能性があります。

DSM-5より、ADHDと自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, ASD)の併存が認められています。つまり、以前の診断基準では、ASDの症状を有する方が、ADHDと診断されることはありませんでしたが、現在の診断基準では、ASDの症状を有する方が、同時にADHDでもある、ということが認められています。

ADHDとよく似た症状が認められる病気として、甲状腺機能亢進症、てんかん、脳腫瘍、限局性学習症、知的能力障害などがあり、鑑別が必要となります。

ADHDの治療

心理・社会的治療

ADHDの方が日々困難を感じている状況を明らかにして、それに対する改善策を具体的に検討していきます。一例としては、

  • 思いついたらすぐ行動に移してしまい、後々後悔する→衝動的に行動するべきではない状況をあらかじめピックアップしておき、衝動的言動の前に、ちょっと考えよう、と自分に言い聞かせるクセをつける。
  • 忘れっぽく、気が散りやすい→目につく所にメモを貼っておく。やるべきことをリストアップして持ち歩く。いつでも記録出来るようにメモを持ち歩く。
  • 嫌なことを後回しにしてしまう→嫌なことで後回しにしてきたことをリストアップし、把握する。これをやり終えたらどんな気持ちになるかと、想像してみる(ことでモチベーションを保ちます)。

構造化された心理・社会的治療としては、ソーシャル・スキル・トレーニング(SST)などがあり、精神科外来などで行われています。

薬物療法

現在我が国でADHDに対して保険適応を取得している薬剤は、以下の3薬です。

  • メチルフェニデート(製品例コンサータ)
  • アトモキセチン(製品例ストラテラ)
  • グアンファシン(製品例インチュニブ)

治療方針としては、最初から薬物療法ではなく、まず心理・社会的治療を行い、それでも効果不十分の場合、薬物療法を行うことが推奨されています。最新のガイドラインによると、これら3薬のいずれもが第一選択薬(最初に投薬する薬)であって良いとされています。

メチルフェニデート(製品例コンサータ) 

  • コンサータは12時間効果が持続することが期待出来る薬物で、効果が速やかに現れ、数日のうちに何らかの効果が見られることが多いです。
  • 初回は、18mg錠1日1回朝服用。
  • 増量が必要な場合は、1週間以上間隔を空けて1日用量として9~18mg増量。最高でも、18歳未満では54mg、18歳以上では72mgを超えないようにする。
  • 副作用として、睡眠障害と食欲抑制が多いが、多くは軽度。
  • 禁忌として、強い不安や重症のうつ病性障害を持つ場合、緑内障、甲状腺機能亢進症、狭心症、運動性チック、トゥレット症候群などがあります。
  • 乱用することがないように注意が必要。そのため、処方医も患者様も登録制となっている。

アトモキセチン(製品例ストラテラ)

  • 効果が1日中持続するため、起床後の準備や夕方から夜間にかけての活動に困難が目立つ場合に、選択される可能性があります。
  • 効果が現れるまでに2~4週間かかる。
  • コンサータで禁忌とされている強い不安や緊張、重症のうつ病性障害、チック障害の場合には、ストラテラやグアンファシンが第一選択となります。
  • 乱用の可能性が低く、処方医も患者様も登録制ではない。
  • 18歳未満の場合、アトモキセチンとして1日0.5mg/kg(体重1kg当たり0.5kg、体重20kgの場合、10mg)より開始。1日2回に分けて服用します。
  • その後0.8mg/kgとし、さらに1.2mg/kgまで増量した後、1日1.2~1.8mg/kgの量を継続します。最大で、1日1.8mg/kgか、120mgの、いずれか少ない方とします。
  • 18歳以上の場合、アトモキセチンとして1日40mgより開始、その後80mgまで増量し、その後80~120mgで継続します。1日1回または2回に分けて服用します。

グアンファシン(製品例インチュニブ)

  • 効果は1日中持続します。効果が現れるまでに1~2週間かかると言われています。
  • 乱用の可能性が低く、処方医も患者様も登録制ではない。
  • 18歳未満の場合、体重50kg未満の場合、グアンファシンとして1日1mg、体重50kg以上の場合、グアンファシンとして1日2mgから開始し、1週間以上の間をあけて、1日1~6mgの維持量まで増量します。体重によって維持量が異なりますので、詳細は添付文書を御参照下さい。
  • 18歳以上の場合、1日2mgより投与を開始し、1週間以上の間をあけて、1mgずつ、1日 4~6mgの維持量まで増量します。
  • グアンファシンには、交感神経を抑制し、気持ちを鎮めたり、血圧を下げたり、脈を遅くしたりする作用があるため、副作用としては、眠気、血圧低下、めまい、立ちくらみ、などがあります。

まとめ

注意欠如・多動症とは、不注意および/または多動性-衝動性が顕著なことを特徴とする疾患で、遺伝的要因と環境要因など多様な因子が発症に関与すると考えられています。その症状は幼少期より認められ、多動性症状は加齢に伴い目立たなくなると言われていますが、注意欠如・多動症の約半数は成人になっても何らかの症状が持続すると言われています。幼少期より現在まで持続している不注意および/または多動性-衝動性の症状に基づき診断されます。心理・社会的治療において、日々困難を感じている状況を明らかにして、それに対する改善策を具体的に検討していきます。また薬物療法としては、メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンの3薬があります。

参考文献

  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
  • 浦部晶夫, 島田和幸, 川合眞一. (2019). 今日の治療薬. 南江堂
  • 鈴村俊介. (2018). 注意欠如・多動症:グアンファシン. 小児内科. 50, 1563-1566.
  • ラッセル・A・バークレー, クリスティン・M・ベントン. (2015). 大人のADHDワークブック. 星和書店.

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