社交不安障害の薬による治療について

はじめに

他者との会話やレストランでの食事など、周りに他の人がいる場面で、変な人だと思われているのではないか、恥ずかしい思いをするのではないかという強い不安を感じて、その様な状況を避けてしまうという方はいらっしゃいませんか。その様な悩みをお持ちの方の中には、社交不安障害(社交不安症)の方がいらっしゃるかも知れません。この記事を読むことで、社交不安障害に対する薬の治療にはどのようなものがあるのかが分かります。また、薬によらない治療法についても紹介します。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

社交不安障害の診断

以下に紹介する治療法は、社交不安障害に対する治療ですので、まず社交不安障害と診断されている必要があります。社交不安障害の診断については、別の記事で説明していますので、そちらを参照してください。

社交不安障害に対する薬の治療

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake inhibitor, SSRI)

社交不安障害と診断された場合、薬物療法を選択するのであれば、このカテゴリーの薬剤が先ず勧められます。

脳内には不安を感じる神経回路があり、セロトニン神経系がその神経回路の活動を弱める、つまり不安を和らげる、働きがあると考えられています。セロトニン神経系では、セロトニンという神経伝達物質が神経間の信号伝達を担っています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、神経と神経の間(シナプス)に放出されたセロトニンが再度神経に取り込まれることをブロック(再取り込み阻害)するため、シナプスでのセロトニンの濃度が増し、それにより、セロトニン神経系の働きが強まるため、不安感が軽くなると考えられています。

SSRIは、効果が出るのに数週間は掛かるので、その間は毎日服薬を継続することが必要です。副作用としては、飲み始めに吐き気を感じることがありますが、服薬を続けていると軽くなってきます。

現在わが国で社交不安障害に対して適応取得している薬剤は、

  • パロキセチン(製品例パキシル10mg) 1-4錠 分1(1日1-4錠を、1回で服用)
  • フルボキサミンマレイン酸塩(製品例ルボックス、デプロメール) 2-6錠 分2(1日2-6錠を、2回に分けて服用)
  • エスシタロプラムシュウ酸塩(製品例レクサプロ10mg) 1-2錠 分1(1日1-2錠を、1回で服用)

です。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

即効性があります(内服後1時間以内に効果がある)。

耐性や依存性の問題があるため、治療初期に併用するか、不安が出現する場面(例えば大勢の人前で話す時)に限って内服する程度にとどめることが望ましいとされています。効果発現に1時間弱かかりますので、不安が出現する場面に立つ約1時間前に内服します。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は多数あり、いずれも効果的と考えられますが、例えば、『今日の精神疾患治療指針第1版』では、一例として、

  • アルプラゾラム(製品例ソラナックス、コンスタン0.4mg) 1錠 頓用(必要時、ということ)

が挙げられています。

その他の薬物療法

動悸、ふるえなどの症状が著しい場合には、ベータブロッカー(ベータ遮断薬)を、不安が出現する場面に限って内服する方法もあります。ただし、ベータブロッカーは、本来高血圧症などの治療薬ですので、社交不安障害に対しては適応外使用になります。

社交不安障害に対する非薬物療法

薬物療法は比較的即効性ですが、非薬物療法と組み合わせることで、更に治療効果が増すことが期待できます。主要な非薬物療法は、認知行動療法森田療法です。いずれも別の記事で紹介していますので、そちらもご参照下さい。

まとめ

社交不安障害に対しては、薬による治療が行われます。先ず試すべきなのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)です。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、治療初期或いは、不安が出現する場面(例えば大勢の人前で話す時)に限っての使用に留めることが推奨されています。

参考文献

樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2012). 今日の精神疾患治療指針. 第1版. 医学書院.

浦部晶夫, 島田和幸, 川合眞一. (2019). 今日の治療薬. 南江堂.

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