心的外傷後ストレス障害(PTSD)ー症状や治療について

はじめに

以前に大変恐ろしく、ショッキングな体験をしたことがある方の中には、その体験のことが突然思い出され、恐怖を感じることがあるという方はいらっしゃらないでしょうか?そのような方の中には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えている方がいらっしゃるかもしれません。この記事を読むことで、PTSDとはどのような病気で、どのような症状があり、どのような治療があるのか知ることが出来ます。病気について正しい知識を得る事は、その改善のために重要です。

心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder; PTSD)とは

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事(トラウマ的出来事)を経験した後に、その経験にまつわる恐怖の記憶が突然思い出されたり、悪夢を繰り返し見たりするなど様々な症状が見られる病気です。海外では、戦争からの帰還兵に共通の精神症状が認められ、我が国では阪神淡路大震災をきっかけとして広く知られる様になりました。

PTSDの症状

A. トラウマ的出来事の存在

実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力に遭遇します。以下のいずれか1つに当てはまります。

  • トラウマ的出来事を直接体験する。
  • 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  • 近親者または親しい友人に起こったトラウマ的出来事を耳にする。
  • トラウマ的出来事の細部を度々見聞きする。

B. 侵入症状

トラウマ的出来事にまつわる辛い体験が意図せずに起こります。以下のいずれか1つが認められます。

  • トラウマ的出来事についての辛い記憶が何度も突然思い出される。
  • トラウマ的出来事に関連した辛い夢を何度も見る。
  • トラウマ的出来事が再び起こっている様に感じる、またはその様に行動する解離症状が認められる。
  • トラウマ的出来事の側面を象徴するきっかけに遭遇した時に強い苦痛を感じる。

C. 回避症状

トラウマ的出来事に関係する事を避ける様になります。以下のいずれかが認められます。

  • トラウマ的出来事を思い出したり考えたりすることを避ける。
  • トラウマ的出来事を思い出させる場所や事物を避ける。

D. 考えや感情のネガティブな変化

考えや感情がネガティブに変化します。以下のいずれか2つが認められます。

  • トラウマ的出来事の重要な場面を思い出せない。
  • 自分自身や世界に対して過剰に否定的な考えを持つ。
  • トラウマ的出来事の原因や結果について、自分自身や他者について、否定的な考えを持ち続ける。
  • ネガティブな感情(恐怖、怒り、罪悪感、恥など)が持続している。
  • 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  • 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚がある。
  • 陽性の感情(幸福や満足、愛情)を体験する事が出来ない。

E. 過覚醒症状

覚醒度が高まり、イライラしやすくなります。以下のいずれか2つが認められます。

  • イライラと激しい怒りのため、人や物に対して攻撃的になる。
  • 無謀なまたは自己破壊的な行動。
  • 過度の警戒心。
  • 過剰な驚愕反応。
  • 集中困難。
  • 睡眠障害。

B〜Eが1ヶ月以上続いている場合、PTSDの可能性があります(持続期間が1ヶ月未満の場合、急性ストレス障害と呼ばれます)。

PTSDとうつ病

PTSDとうつ病は併発しやすく、PTSDの約半数はうつ病を併発していると言われています。またPTSDとうつ病が併発している場合、PTSD症状が治療により改善すると、うつ病も改善する事が多いと言われています。

PTSDの治療

『今日の精神疾患治療指針第2版』によると、治療方法は、薬物療法と精神療法になります。

治療上、以下は覚えておいて頂きたい点です。

  • トラウマ体験後に精神状態が不安定になる事は決して珍しくないこと
  • トラウマ体験から1年以内には症状は自然軽快する可能性が比較的高いこと
  • 一定期間が経過しても自然軽快しない場合は、下記の精神療法や薬物療法などの治療法があるため、現在の辛い状態が永続するわけではないこと

薬物療法

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が有効とされていて、パロキセチンとセルトラリンが保険適応を取得しています。前述の通り、PTSDはうつ病の併発が多いため、その点からも薬物療法としてまず抗うつ薬を使用することは妥当だと提唱されています。

  • パロキセチン(製品例パキシル10mg) 1-2錠 分1(1日1-2錠を1回で服用、最大1日4錠まで増量可能)
  • セルトラリン(製品例ジェイゾロフト) 1-4錠 分2(1日1-4錠を、1回で服用)

精神療法

平成28年度より持続エクスポージャー療法(prolonged exposure therapy, PE)がPTSDに対して保険適応となっています。その他、眼球運動による脱感作と再処理法(Eye Movement Desensitization and Reprocessing, EMDR)も有効な治療法とされています。いずれの治療法も、専門家の指導のもと実施される必要が有ります。

まとめ

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事を経験した後に、その経験にまつわる恐怖の記憶が突然思い出されたり、悪夢を繰り返し見たりするなど様々な症状が見られる病気です。侵入症状、回避症状、考えや感情のネガティブな変化、過覚醒症状が1ヶ月以上に渡って認められます。PTSDの約半数はうつ病を併発していると言われています。治療としては、抗うつ薬による薬物療法や様々な精神療法が行われます。

参考文献

  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
  • 飛鳥井望. (2017). 心的外傷後ストレス障害(PTSD)とうつ病. DEPRESSION JOURNAL, 5; 24-27.

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