はじめに
もしかしたらうつ病かもしれないと心配しておられる方々は、うつ病の治療はどういうことをするのだろうと疑問に思っていませんか?その様な方々のために、ここではうつ病の一般的な治療方針についてご紹介したいと思います。この記事を読む事で、うつ病の発症のしくみとそれに沿った治療方針について知る事が出来ます。うつ病の治療について正しい知識を得ることは、うつ病からの回復のために重要です。
うつ病の鑑別診断
まずうつ病の診断が重要ですが、うつ症状が認められるのはうつ病だけではありませんので、他の病気との鑑別診断を行う必要があります。うつ状態が認められる病気としては、うつ病の他、適応障害、気分変調症、躁うつ病、あるいは統合失調症などがあります。詳しくは別の記事「うつ状態が認められる主な病気について」をご参照下さい。
うつ病の治療方針
一般に、患者さんが病気とその治療に関して、医療者の意図を十分理解し、納得していれば、治療はより有効で円滑なものになります。うつ病がどのようなしくみで発症し、どのような治療が必要かということを理解して頂いた上で、その治療方針に沿った好ましい行動を取って頂けることが、うつ病の改善のために重要です。
うつ病が発症するしくみ
うつ病が発症するしくみを説明します。うつ病においては、心理的・身体的ストレスなど環境要因が誘因となり脳の機能障害を引き起こすことで、否定的なものの見方に傾き、環境要因の解決が困難となり、脳の機能障害が持続するという悪循環が生じていると考えられています。
- 心理(状況)的要因と身体的要因など複数のストレスになる出来事が持続する。
- 脳由来神経栄養因子などの異常が起こり、神経細胞が障害され、脳の機能不全が起きる。
- 脳の機能不全が否定的なものの見方(物事の否定的側面ばかりを見てしまう)を引き起こす。
- 自分、周囲、将来へのマイナス思考を抱く様になる。例えば、周囲へのマイナス思考から、誰もサポートしてくれないと考え、問題を1人で抱え込んでしまうことにより、問題解決がより困難になり、更にストレスが強くなります。将来への不安が強まり、眠れなくなります。この様にして悪循環が形成されてしまうのがうつ病です(図1)。
うつ病にはどの様な治療が必要か
図1に示す通り、うつ病の治療においては上で述べた悪循環を断ち切ることを目指します。すなわち
- 脳神経細胞の障害を改善するために、脳(心)の休息と薬物療法と睡眠の確保が重要です。
- 周囲に相談してサポートを得て、一旦ストレスとなる問題から離れるために助言などを行います。
- 否定的なものの見方に偏っていることに気付いて頂き、バランスの取れた見方への転換を図ります。
- 生活習慣の改善など、日常生活面での助言等を行います。睡眠を十分とり、朝は一定の時間に起床して外光に当たることによって、睡眠覚醒リズムの改善を図ります。
うつ病の薬物療法
うつ病に対する薬物療法は、抗うつ薬の内服治療が基本となります。現在国内では、以下の様な種類の抗うつ薬が発売されています。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor; SSRI)
- セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin Noradrenaline Reuptake Inhibitor; SNRI)
- 三環系抗うつ薬
- 非三環系抗うつ薬
- ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン作動性抗うつ薬(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant; NaSSA)
上記のセロトニンやノルアドレナリンとは、脳内の神経伝達物質で、脳内の神経細胞間の信号伝達に重要な役割を果たしていますが、うつ病においては、これらの神経伝達物質が欠乏しており、抗うつ薬はこれらの神経伝達物質を増加させる事で効果を発揮すると考られていました。
どのカテゴリーの抗うつ薬で治療を開始しても構いませんが、副作用が比較的少ないという理由から、SSRI、SNRIあるいはNaSSAの中から1種類を選択し、少量から開始し、副作用と効果を見ながら増量していく事が多いと考えられます。効果が不十分で、副作用の問題がなければ、最大量まで増量し、少なくとも1ヶ月間以上は継続します。もし無効ならば、第二選択の抗うつ薬に変更します。その際には、第一選択で用いた抗うつ薬と異なるカテゴリーの抗うつ薬を選択します。第二選択薬でも効果がなかった場合、難治性うつ病の可能性があります。難治性うつ病の治療については、別の記事「治らないうつ病(難治性うつ病)の治療」を参照してください。
うつ症状が改善した後の治療
初回エピソードのうつ病患者さんの約60%が再発すると言われており、うつ病は再発しやすいと考えられます。また早期に抗うつ薬を中止・減量することは再発の危険性を高める事と報告されています。そのため、症状が改善してからも、6〜9ヶ月またはそれ以上の期間、同じ内服量を継続する事が推奨されています。
まとめ
うつ病においては、心理的・身体的ストレスなど環境要因が誘因となり脳の機能障害を引き起こすことで、否定的なものの見方に傾き、環境要因の解決が困難となり、脳の機能障害が持続するという悪循環が生じていると考えられています。うつ病の治療においては、その様な悪循環を断ち切ることを目指します。そのために、脳の休息と薬物療法、睡眠の調整、環境調整、否定的なものの見方に気付くための精神療法、生活リズムの改善を図ります。症状が改善してからも、6~9ヶ月間またはそれ以上の期間、内服治療を継続する事が推奨されています。
参考文献
- 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 難治性うつ病. 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
- うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害. (2016). 日本うつ病学会治療ガイドライン II.
- 大熊輝雄. (2013). 現代臨床精神医学改訂第12版. 金原出版.
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