はじめに
ストレスがきっかけでうつになるとよく言われますが、ストレスがうつ病の発症にどの様に関係しているのか、疑問を感じたりしていませんか?その様な方々のために、ここではストレスをきっかけとして、うつ病がどの様にして発症するのか、最近の知見をご紹介したいと思います。この記事を読む事で、ストレスによって身体に起こる異常と、それを介してうつ病が発症するしくみを知る事が出来ます。うつ病について正しい知識を得ることは回復のために重要です。
視床下部ー下垂体ー副腎皮質系の異常
生体にストレスがかかると、脳内の視床下部という場所から、コルチコトロピン遊離促進ホルモン(corticotropin releaseing hormone; CRH)が産生され、これが脳内の下垂体という場所に働き、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone; ACTH)の産生を促します。ACTHは血流を介して副腎という臓器に到達すると、副腎皮質から副腎皮質ホルモンのグルココルチコイドの産生を促します。グルココルチコイドは、全身の様々な臓器に働き、血糖値上昇など、ストレスに適応するために必要な変化を起こします。産生されたグルココルチコイドは、視床下部や下垂体に働き、CRHやACTHの過剰な産生にブレーキを掛けます(負のフィードバック)。このようなグルココルチコイド産生制御機構を、視床下部ー下垂体ー副腎皮質系(hypothalamic-pituitary-adrenal axis; HPA系)と言います(図1)。
何らかの人格特徴や遺伝的な体質、または幼少期の養育環境などを基盤として、素因的なストレスに対するもろさ(ストレス脆弱性)を持つ方に、心理(状況)的要因(ストレス、心理的葛藤、経済的困窮など社会的要因)や身体的要因(種々の身体疾患、疲労、女性では月経、出産などの生殖過程、思春期、更年期、老年期などの体内環境の変化)が重なった時、HPA系の制御機構に乱れが生じ、過剰なグルココルチコイドが産生され(HPA系の機能亢進)、脳を障害し、うつ病発症に関与すると考えられています(図2)。一方、心的外傷後ストレス障害のうつ状態ではHPA系の過剰抑制が認められるとも報告されています。
脳由来神経栄養因子の異常
脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor; BDNF)は、脳内に強く発現しており、神経細胞の生存維持や新生(神経幹細胞が神経細胞へと分化すること)に密接に関与しています。抗うつ薬や電気けいれん療法により、BDNFの発現が高まることが報告されています。一方、グルココルチコイドにより、脳内でのBDNFの量が減少し、BDNFの働きが阻害されることが報告されています。これらのことから、HPA系の機能亢進が起こり、グルココルチコイドが過剰に産生されると、脳内でのBDNFの量が減少し、BDNFの働きが阻害されるため、海馬(記憶などの機能に関与する大脳の部位)などで神経細胞の機能障害が起こり、これが基盤となって、うつ病の精神症状や身体症状が起こると考えられます(図2)。うつ病の治療過程においては、休息を取り、ストレスなど心理的要因や過労など身体的要因が軽減されることにより、HPA系の機能の正常化が起こり、それに伴いBDNFの発現や機能の正常化が起こると考えられます。それと同時に、抗うつ薬や電気けいれん療法によりBDNFの発現が高まると、海馬など神経細胞の修復が起こり、うつ病の症状が改善すると考えられます(図2)。
(参考文献2 P378 図8-12を引用改変)
まとめ
慢性的に心理(状況)的、身体的ストレスが重なった時、視床下部ー下垂体ー副腎皮質系(HPA系)の制御機構に乱れが生じ、副腎皮質ホルモンであるグルココルチコイドが過剰に産生されます(HPA系の機能亢進)。グルココルチコイドは、脳内の脳由来神経栄養因子(BDNF)の働きを阻害し、海馬などにおいて、神経細胞の機能障害が起こり、うつ病の精神症状や身体症状が起こると考えられます。一方、うつ病の治療過程においては、休息を取り、ストレスなど心理的要因や過労など身体的要因が軽減されることにより、HPA系の機能の正常化が起こり、それに伴いBDNFの発現や機能の正常化が起こると考えられます。それと同時に、抗うつ薬や電気けいれん療法によりBDNFの発現が高まると、海馬など神経細胞の修復が起こり、うつ病の症状が改善すると考えられます。
参考文献
- 功刀浩. (2018). うつ病と双極性障害の成因仮説. 診断と治療のABC, 141(別冊):34-45.
- 大熊輝雄. (2013). 現代臨床精神医学改訂第12版. 金原出版.
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