不安症/不安障害・強迫症/強迫性障害とうつ病

はじめに

突然ドキドキして急に不安になったり、人前で話や食事をしたりするのをとても不安に感じたりするため、外出などを控えてしまい、自分は病気なのではないかと不安に感じたりしていませんか?不安は誰もが持つ感情の1つですが、その様な状態はもしかすると不安症かもしれません。この記事では、強い不安を感じている自分の状態を、病気ではないかと当惑しておられる方々に、不安を主症状とする病気、不安症や強迫症の特徴をご紹介したいと思います。この記事を読むことによって、不安症、強迫症の特徴およびうつ病との関係を知る事が出来ます。病気について正しい知識を得ることは、回復のために重要です。

不安症/不安障害とは

不安症は、ストレス因子とストレス脆弱性によって発症する、不安を主症状とする病気の総称です。不安症には、パニック症、社交不安症、全般性不安症などの病気が含まれます。以下に、代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)に掲載されており、うつ病にしばしば併発する不安症の診断基準をご紹介したいと思います。従来、不安障害や強迫性障害と呼ばれていましたが、DSM-5からは、それぞれ不安症、強迫症と呼ばれています。以前は不安に関連する病気として同一のカテゴリーに属していた強迫症は、DSM-5からは、不安症とは独立したカテゴリーを設けられています。

パニック症/パニック障害

パニック症/パニック障害とは

不意にパニック発作が生じ、パニック発作に対する予期不安が著しく高い病気です。パニック発作とは、突然生じる激しい恐怖や強烈な不快感の高まりに伴い、動悸や息切れ感、めまい、窒息感などが生じる状態です。また、再びパニック発作が起こるのでは無いかという持続性の不安(予期不安)を抱く様になり、運動や外出を控えることで、日常生活に影響が出ます。

パニック症/パニック障害の診断基準

A. 予期しないパニック発作が繰り返されます。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不安感が数分以内にピークに達し、その際、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こるものを言います。

  1. 動悸、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 体の震え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部不快感
  7. 嘔気または腹部不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 感覚麻痺またはうずき感
  11. 現実では無い感じまたは自分自身から離脱している感じ
  12. ”どうかなってしまう”ことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖

B. パニック発作に伴い、以下の1つまたは両者が1ヶ月(またはそれ以上)続いている。

  • さらなるパニック発作またはその結果についてずっと心配している。
  • パニック発作の影響で、行動面に望ましくない変化が起きている(運動や外出を避けることなど)。

以上のAとBを満たす場合、パニック症の可能性があります。

社交不安症/社交不安障害

A. 他人の注目を浴びる可能性のある状況に対して、著しい恐怖または不安を感じる。例として、会話や飲食など、他人の前で何らかの動作をすること。

B. 人前での自分の振る舞いや不安症状を見せることが、否定的に評価されると恐れている(恥ずかしい思いをするだろう、など)。

C. その状況は避けられるか、または、強い恐怖または不安を感じながらも耐え忍ばれる。

D. その恐怖、不安、または回避は、典型的には6ヶ月以上続く。

以上のA〜Dを満たす場合、社交不安症の可能性があります。

全般性不安症/全般性不安障害

A. (仕事や学業などの)多数の出来事または活動について過剰に不安と心配(予期憂慮)を感じる。その様な状態が少なくとも6ヶ月間にわたって続いている。

B. その不安及び心配は、以下の6つの症状のうち3つ(またはそれ以上)を伴っている(子供の場合は、1項目だけが必要)。

  1. 落ち着きのなさ、緊張感、または神経の高ぶり
  2. 疲労しやすさ
  3. 集中困難、または心が空白になること
  4. 怒りっぽさ
  5. 筋肉の緊張
  6. 睡眠障害(寝付きが悪いまたは途中で目が覚める、または、ぐっすり眠れた感じがしない)

以上のAとBを満たす場合、全般性不安症の可能性があります。

強迫症/強迫性障害

強迫症は、繰り返し生じる思考(強迫観念)とそれを打ち消すための繰り返しの行動(強迫行為)が主要な症状です。強迫観念や強迫行為は通常不安や苦痛を伴い、時間を浪費させたりするため、日常生活への影響が大きくなります。

A. 強迫観念、強迫行為、またはその両方が存在する。

強迫観念は以下の1と2によって定義される。

  1. 繰り返される持続的な思考、衝動、またはイメージで、無意味なことだと分かっていても頭から離れず、強い不安や苦痛の原因となる。
  2. その思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって打ち消そうとします。

強迫行為は以下の1と2によって定義される。

  1. 強迫観念などによって駆り立てられる様に感じて行う、繰り返しの行動(例:手を洗う)または心の中の行為(例:祈る)。
  2. その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和することなどを目的としている。しかしその目的のためには、現実的には意味が無いか、または明らかに過剰である。

B. 強迫観念または強迫行為は時間を浪費させたり(1日1時間以上)することで、大きな負担となっている。

以上のAとBを満たす場合、強迫症の可能性があります。

不安症・強迫症とうつ病の関係

何らかの不安症、強迫症、または心的外傷後ストレス障害が、うつ病と併発する確率は57%に上ると報告されています。また、何らかの不安症、パニック症、あるいは社交不安症の併発が、うつ病の治りづらさ(難治化)に関与するとも報告されています。つまり、不安症、強迫症は、元々うつ病に併発しやすく、併発した場合はうつ病が難治化する傾向があります。うつ病に不安症や強迫症が併発した場合は、うつ病と不安症や強迫症を同時に治療していく必要がありますので、そのためにも難治性うつ病の治療に際しては、不安症や強迫症が併発していないか、再検討する事が重要です。

まとめ

不安症には、パニック症、社交不安症、全般性不安症などの病気が含まれます。強迫症は、強迫観念、強迫行為、またはその両方が存在する病気です。不安症や強迫症は元々うつ病に併発しやすく、併発した場合はうつ病が難治化する傾向があります。うつ病に不安症や強迫症が併発した場合は、うつ病と不安症や強迫症を同時に治療していく必要がありますので、そのためにも難治性うつ病の治療に際しては、不安症や強迫症が併発していないか、再検討する事が重要です。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
  • うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害. (2016). 日本うつ病学会治療ガイドライン II.

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