愛着スタイルの特徴とその判定方法について

はじめに

親しい人間関係を求めている一方で、親しい人から嫌われるんじゃないかと不安に感じやすく、親しい関係をむしろ重荷に感じたりすることが多かった、という方はいらっしゃいませんか。そのような方の中には、不安定な愛着スタイルをお持ちの方がいらっしゃるかもしれません。ここではうつ病の発症や長期化の要因ともなり得る、愛着スタイルについてご紹介したいと思います。この記事を読む事で、愛着スタイルがどのようなもので、どのように判定出来るのかを知る事が出来ます。更に、何故うつ病にも関係があるのかが分かります。愛着スタイルについて正しい知識を得られれば、対人関係の悩みに対処する上で役立つと考えられます。

愛着とは

愛着とは、乳幼児が本能的に母親(養育者)にしがみついたり、泣いたり、微笑んだりすると母親が応じるという、母子相互交流の中で形成される母子間の情緒的な結びつきのことで、ジョン・ボウルビィによって、愛着理論としてまとめられています。母親など特定の養育者との間に形成されるこの結びつきのことを愛着の絆と呼びます。この絆は絶え間ない母子相互交流の中で形成されるため、母親など愛着の対象は、乳幼児にとって代わりがきかない特別な存在であり、このことを愛着の選択性と言います。乳幼児は、特定の養育者との情緒的交流の体験を通じて、愛着の絆のイメージを抱きます。ボウルビィは、その愛着の絆のイメージは、二つの因子で特徴付けられると提唱しました。一つの因子は、自分は、その養育者に助けて貰える存在なのか、ということについてであり、もう一つの因子は、その養育者が、援助と保護の求めに応じてくれる人物であるかどうかということについてです。前者は、乳幼児の自己に対するイメージであり、後者は、乳幼児の他者に対するイメージだと考えられます。このイメージは、乳幼児と特定の養育者の情緒的交流が繰り返される中で作り変えられていきます。

愛着パターン

乳幼児がストレスを感じた際に、特定の養育者を求め、その養育者の側に居ようとする行動を、愛着行動と言います。乳幼児が抱く愛着の絆のイメージは、愛着行動に現れると考えられます。乳幼児の愛着の特徴を調べる検査においては、乳幼児を一旦親から離し、その後再会させた時に、乳幼児が示す反応(愛着行動)を観察します(新奇場面法)。エインスワースは新奇場面法において乳幼児が示す3つの行動パターン(愛着パターン)を同定しました。これらの3つに当てはまらないパターンとして、混乱型が後に提唱され、併せて4つのパターンに分類される様になっています。新奇場面法は、主として生後12~20ヶ月の乳幼児に対して用いられます。

  • 安定型:親と再会すると、喜び自ら近づいて落ち着きます。
  • 不安ー抵抗型:再会すると、強く接触を求めると同時に、むずがったり、抵抗を示すという、相反する二つの行動が認められます。
  • 回避型:親と再会しても、自ら近づいて抱かれようとしません。
  • 混乱型:長時間固まった様に動かなかったり、相矛盾する行動を同時にとったり、行動がまとまりを欠いたりします。

愛着スタイル

愛着の絆のイメージは、子供が両親以外の対人関係を体験していく過程で修正を受けつつ、徐々に愛着スタイルとして確立され、長期に渡って対人関係の基盤となると考えられます。成人の愛着スタイルについては、ボウルビィが唱えた、自己に対するイメージ(自己観)と、他者に対するイメージ(他者観)の二つの因子に基づいて分類する方法が提唱されています。自己観因子は、見捨てられ不安の傾向で計られます。これは、自己観が良いということは、親密な関係の相手から見捨てられるかもしれないという不安が低いと考えられるからです。また、他者観因子は、親密性の回避の傾向で計られます。これは、他者観が良いということは、親密な関係を避けようとする傾向は低くなると考えられるからです。自己観因子と他者観因子で分けられる愛着スタイルは、以下の4つです。安定型以外のスタイル(とらわれ型、拒絶型、恐れ型)を不安定型愛着スタイルとも言います。これを図示すると、図1のようになります。

  • 安定型(自己観:良い、他者観:良い、見捨てられ不安:低い、親密性の回避:低い):自分は他者と支え合っていける存在だと思っている。また、他者も自分を受け入れてくれて、支えてくれる存在だと思っている。
  • とらわれ型(自己観:悪い、他者観:良い、見捨てられ不安:高い、親密性の回避:低い):他者は自分を受け入れて、支えてくれる存在だと思うが、自分は(愛される)価値が無い存在だと思っている。他者からの承認によって自尊感情を何とか手に入れようとする。
  • 拒絶型(自己観:良い、他者観:悪い、見捨てられ不安:低い、親密性の回避:高い):自分は自立してやっていくものだと思っている。他者に頼ることも頼られることも好まず、親密な関係を避けることで、対人関係で失望することを避けている。
  • 恐れ型(自己観:悪い、他者観:悪い、見捨てられ不安:高い、親密性の回避:高い):自分には(愛される)価値が無いと思っており、他者は信頼出来ず、自分のことを拒絶すると思っている。親密な関係を避けることにより、他者から拒絶されることを避けている。

この様に、愛着スタイルは、自分と他者に対するイメージの原型となり、自尊感情や対人関係の捉え方など、人格の重要な部分を形成していくと考えられます。

愛着スタイルと対人関係

岡田尊司氏は、『愛着障害』の中で、各愛着スタイルの対人関係における特徴を以下のように述べておられます。

安定型

対人関係における絆が安定している。自分が愛着し信頼している人が、自分をいつまでも愛し続けてくれることを確信している。人の反応を肯定的に捉えるので、対人関係に率直で、前向きである。

拒絶型

対人関係に親密さよりも距離を求める。親しい関係を心地よいとは感じず、むしろ重荷に感じやすい。ひきこもりがちになることもある。対人関係について、縛られたくないと思っている。人に依存せず、人から依存されることがない自立した状態を重視する。また、対人関係において葛藤を避けようとする。人とぶつかるくらいなら、自ら身を引くことを選ぶ。その一方で、ストレスが加えられると短絡的に反応し、攻撃的になりやすい。

とらわれ型

仕事でもプライベートでも常に周囲に気を遣っている。周囲へ過剰に気遣いし、それが空回りすることがある。相手の表情に対して敏感で、時に怒りの表情と誤解してしまうこともある。自分自身のことを取り柄が無い、愛されない存在と思いがちで、対人関係において、拒絶や見捨てられることに極めて敏感で、「愛されたい」「受け入れられたい」という気持ちが非常に強い。親密な関係になると、べったりした依存関係を好む傾向がある。

恐れ型

対人関係を避けてひきこもろうとする面と、人の反応に敏感で見捨てられ不安が強い面の両方を抱えているため、対人関係が不安定なものになりやすい。親密になることでストレスを感じたりする一方で、相手が距離を取ろうとすると見捨てられ不安が高まる。人を信じたいが信じられないというジレンマを抱えている。それゆえ、疑り深く、時に被害妄想的な考えに陥りやすい。

愛着スタイルの判定方法

成人の愛着スタイルを調べる方法は幾つも提唱されていますが、自分でも出来る自己記入式形式のものとして、

  • 関係尺度(Relationship Questionnaire; RQ)
  • 親密な対人関係体験尺度(Experiences in Close Relationship inventory; ECR)

などがあります。また、参考文献に挙げた、岡田尊司氏の著書にも、愛着スタイルの判定方法が記されています。RQは、どの愛着スタイルに当てはまるかを強制的に選択させる質問形式をとっていて、ECRは、多数の質問により、見捨てられ不安と親密性の回避の傾向を計り、それにより愛着スタイルを調べるものです。RQやECRも、親密な対人関係として、恋人を想定するのか、一般的な他者を想定するのかで分けられますが、一例を挙げておきます。

愛着スタイルとうつ病

愛着スタイルはしばしばうつ病の発症や長期化に関わっていると考えられます。不安定型愛着スタイルの方は、うつ病の発症、悪化や治りづらさ(難治化)の要因の1つと考えられている心理的ストレスを抱えやすいと考えられます。図1に示す様に、友人に電子メールを出したが、それに返信が来なかった場合、安定型愛着スタイルの方は、まだ電子メール自体を見ていないのだろうとか、何か用事があって返信する時間が無いのだろう、と考え、待っていても仕方無いから出掛けよう、と考えることで、返信を待っている時間にストレス発散を出来ます。これに対して、不安定型愛着スタイルの方、特にとらわれ型や恐れ型の方は、見捨てられ不安が強いため、嫌われてしまったから、返信が来ないのではないだろうかと不安を抱きやすく、出掛ける気分にもならず、ただただ返信を待つことになり、そのためストレスが溜まりやすくなります。

実際、不安定型愛着スタイルは、成人のうつ病のリスクファクターであると報告されています。この理由として、不安定型の愛着スタイルにおける、自己観及び他者観が、うつ病発症のリスクとなりやすいからだと提唱されています。とらわれ型や恐れ型は、自己観が悪く、「私は価値が無い」と言ったイメージを抱きやすいと考えられます。また、拒絶型や恐れ型は、他者観が悪く、「誰も私のことを大事に思ってくれない、誰も私の助けになってくれない」と言ったイメージを抱きやすいと考えられます。このような、自己や他者に対するマイナスイメージは、うつ病で陥りやすい3つのマイナス思考(自分、周囲、将来へのマイナス思考)の2つに相当します。「うつ病発症の仕組み」の記事で示した様に、うつ病発症の際には、しばしば心理(状況)的要因が関与すると考えられています。この心理的要因には、慣れない環境へのプレッシャーや対人関係問題などが含まれると考えられますが、その様な問題に直面した時に、上で述べた自己や他者に対するマイナス思考を抱いていると、自分の能力を過度に低く考えたり、相手の気持ちを深読みし過ぎたりして、心理的ストレスを抱えやすくなります。このように、不安定型愛着スタイルを有する方は、心理的ストレスを抱えやすいため、うつ病発症や難治化のリスクが高いと考えられます。したがって、うつ病が長期間治らない場合、何らかの心理的ストレスが持続していないかということと、不安定型愛着スタイルの関与の可能性を検討するべきだと考えます。

まとめ

子供は母親との情緒的交流を通じて、愛着の絆のイメージを抱きます。そのイメージは二つの因子で特徴付けられます。それは、自分は養育者に助けて貰える存在なのか、ということと、養育者は自分を助けてくれる人なのか、ということです。それは、後に子供の自己観と他者観の基盤となり、幼少期には愛着パターンという形で子供の行動に現れます。愛着の絆のイメージは、子供が両親以外の対人関係を体験していく過程で修正を受けつつ、徐々に愛着スタイルとして確立され、長期に渡って対人関係の基盤となると考えられます。成人の愛着スタイルは、自己観と他者観により、安定型、とらわれ型、拒絶型、恐れ型の4つに区別されます。成人の愛着スタイルを調べる方法としては、自分でも出来る自己記入式形式のものとして、関係尺度(RQ)や親密な対人関係体験尺度(ECR)などが提唱されています。不安定型愛着スタイルは、うつ病発症や難治化のリスクが高いと考えられており、愛着スタイルについて正しい知識を得られれば、対人関係の悩みに対処する上で役立つと考えられます。

 

参考文献

  • 岡田尊司. (2011). 愛着障害. 光文社新書.
  • K Bartholomew, L M Horowitz. (1991). Attachment Styles Among Young Adults: A Test of a Four-Category Model. J Pers Soc Psychol. 61(2):226-44. 
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  • 中尾達馬, 加藤和生. (2004). 一般他者を想定した愛着スタイル尺度の信頼性と妥当性の検討. 九州大学心理学研究; 5, 19-27.
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  • うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料). 厚生労働省.
  • Diane Benoit. (2004). Infant-parent attachment: definition, types, antecedents, measurement and outcome. Paediatr Child Health, 9(8), 541-545.
  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 難治性うつ病. 今日の精神疾患治療指針第2版, 医学書院.

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