はじめに
ご自分が、あるいはご家族やご友人が、境界性パーソナリティ障害だと告げられ、境界性パーソナリティ障害とはどのような病気だろうと思っていらっしゃいませんか。或いは、ご家族やご友人が境界性パーソナリティ障害ではないだろうかと心配していらっしゃらないでしょうか。この記事では、境界性パーソナリティ障害とはどのような病気なのか、その症状や診断についてご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。
境界性パーソナリティ障害とは
パーソナリティとは、考え方、感じ方、行動の仕方、対人関係の持ち方などに現れる、その人の特徴で、人格とも呼ばれます。パーソナリティ障害(人格障害)とは、そのような特徴の偏りが著しく、職場や学校など社会生活に支障を引き起こしている状態のことです。パーソナリティ障害は、目立つ症状により更に細分化され、境界性パーソナリティ障害とは、対人関係、自己像、感情などが不安定で、衝動性が高いことを特徴とする、パーソナリティ(人格)の病気です。成人期早期までに始まるとされています。パーソナリティ障害一般については、こちらを参照してください。
境界性パーソナリティ障害の原因は不明ですが、生物学的要因と一貫しない養育や劣悪な環境など後天的な要因が提唱されています。
我が国での有病率調査は殆どありませんが、米国での有病率は一般人口の約2%で、約75%が女性であると言われています。
境界性パーソナリティ障害の診断
世界的に精神疾患の診断に使われている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)に掲載されている境界性パーソナリティ障害の診断基準は、「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」によると、以下の通りです。
以上のうち、5つまたはそれ以上が当てはまる場合、境界性パーソナリティ障害の可能性があります。
(1) 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力
(2) 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定な対人関係
(3)同一性の混乱:著明で持続的に不安定な自己像または自己意識
(4) 自己を傷つける可能性のある衝動性。少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)
(5) 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
(6)感情の不安定性(例:通常は2~3時間持続し, 2~3日以上持続することはまれな、強い不快気分、いらだたしさ、または不安)
(7)慢性的な空虚感
(8) 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す)
(9)一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状
境界性パーソナリティ障害の症状
見捨てられ不安:限られた期間の別離ややむをえない計画の変更に対してさえも、見捨てられる恐怖や不適切な怒りを強く体験します。この障害をもつ人は、現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとなりふりかまわない努力をします。1人でいることに耐えられず、他の人に一緒にいてもらうことを要求したりします。見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力には、自傷行為や自殺行動のような衝動的な行為も含まれるかもしれません。
情緒不安定:特にきっかけも無く、苛立たしさや不安による強い気分不快によって情緒不安定となりやすい。通常は数時間持続するが、数日間持続することはありません。この不安定性は、対人関係のストレスに対するその人の極端な反応性を反映している場合があります。
慢性的に虚しさを感じている:この障害を持つ人は、慢性的な空虚感に悩まされているかもしれない。 飽きっぽく、いつも何かすることを探しているかもしれません。
攻撃的になる:この障害を持つ人はしばしば、不適切な激しい怒りを表現したり、自分の怒りを制御出来なかったりします。ひどく辛辣で、いやみを言い続け、爆発的に激しい言葉を吐いたりするかもしれません。世話を焼いてくれる人や恋人が冷淡だ、何も与えてくれない、世話をしてくれない、または自分を見捨てた、と思うと、しばしば怒りが呼び起こされます。こうして怒りを表出した後は、しばしば恥ずかしさや罪悪感が生じることがあります。
対人関係が不安定:この障害をもつ人は、対人関係が不安定です。こうした人達は1~2回会っただけでその人のことを自分の面倒をみてくれるまたは恋人になる可能性があると理想化し、長い時間を一緒に過ごすように要求し、そのかかわりの早期から非常に個人的なことを詳しく分かち合おうとするかもしれません。そうかと思えば、些細なことをきっかけとして、理想化からこき下ろしへとすばやく変わり、その人が自分の面倒を十分にみてくれない、十分なものを与えてくれない、または十分にそこにいてくれないと感じるかもしれません。こうした人達は他人に対する見方を突然に、しかも極端に変化させる傾向があり、この人達にとって他人は有益な援助をしてくれるかあるいは残酷な罰を与えるかのどちらかであると映っています。
高い衝動性:この障害をもつ人は、しばしば自分を傷つける可能性のある衝動性を示します。それらは、ギャンブル、無責任な金銭浪費、過食、物質乱用、危険な性行為、無謀運転などであるかもしれません。
自殺または自傷行為:この障害をもつ人においては、自殺の行動、そぶり、脅し、または(リストカットなどの)自傷行為を繰り返すことが頻繁に見られます。これら自己破壊的行為は通常、距離をおかれることや拒絶されるという脅威や、またはその人の責任が増大すると予期された場合に突然起きます。
併存症が多い:境界性パーソナリティ障害に併存する障害は多く、特に境界性パーソナリティ障害の半数以上がうつ病や気分変調症を併存し、10%前後に双極性障害を併存するなど、気分障害の併存が最も多い。その他、心的外傷後ストレス障害、物質乱用、摂食障害(神経性やせ症や神経性過食症、特に過食が認められる場合に多い)、自己愛性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害の併存がそれぞれ30%前後みられると言われています。
まとめ
境界性パーソナリティ障害とは、対人関係、自己像、感情などが不安定で、衝動性が高いことを特徴とする、パーソナリティ(人格)の病気です。成人期早期までに始まるとされています。見捨てられ不安を抱きやすく、苛立たしさや不安による強い気分不快によって情緒不安定となりやすい。短期間で非常に親しくなったかと思うと、些細なことで壊れてしまうような対人関係の不安定性が見られます。激しい怒りを示したり、怒りの感情のコントロールが出来なかったり、自殺企図や自傷行為など衝動行為が認められます。
参考文献
- 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
- 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針第2版. 医学書院.
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