不眠症(不眠障害)の治療について

はじめに

不眠症(不眠障害)は、適切な環境で眠ろうとしても寝付けなかったり、途中で目が覚めたり、目が覚めるのが早すぎたりして、睡眠が十分とれず、日中の活動に影響が出ている状態です。不眠による日中活動への影響としては、疲労感、注意集中困難、作業効率低下、気分不快、眠気、多動、気力低下、間違いの増加、夜間睡眠へのこだわり、などが見られます。このような症状でお困りの方は、メンタルクリニックではどのような治療が行われるのか不安で、受診を迷っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、不眠症(不眠障害)の治療について、ご紹介したいと思います。

不眠症(不眠障害)の治療

不眠症の治療は、大きく分けて、薬によらない治療(非薬物療法)と薬による治療(薬物療法)があります。

非薬物療法

睡眠衛生指導

睡眠時間:6〜8時間が健康リスクを低くするが、個人差が大きいことを理解することが重要です。

朝の日光の取り込み:体内時計をリセットするには、遅くとも朝9〜10時までに、太陽光や屋外に相当する明るさの光を浴びることが重要です。室内光では不十分とされています。

運動:運動により、アデノシンをはじめ、さまざまな睡眠を促進する物質が産生されるため、睡眠を改善すると考えられています。また、眠気は深部体温の低下に伴って出現することがわかっています。運動することにより、一時的に深部体温が上昇すると、低下する際に眠気が生じ、眠りやすくなります。同様の効果は、入浴でも得ることが出来ます。しかし、運動や入浴は、眠る直前に行うと、深部体温の上昇とともに交感神経が刺激され、眠りづらくなります。

カフェイン、タバコ、アルコール:夕方以降のカフェインのとりすぎは、アデノシンに拮抗するため、睡眠の妨げになります。タバコに含まれるニコチンが、覚醒作用を有しており、睡眠も浅くなると言われています。アルコールは、短期的には寝つきを良くする場合もありますが、利尿作用と、2、3時間経つと睡眠を浅くしてしまう作用があり、結果的に睡眠を妨害します。

テレビ、パソコン、スマートフォンなど、夜の光の刺激は、極く簡単に睡眠に重要なメラトニンの分泌を減少させてしまい、睡眠を妨害します。同じ意味で、睡眠中は出来るだけ部屋を暗く静かに保つことが重要です。中には部屋を明るくしたまま眠る人がいますが、良質な睡眠の妨げとなります。

リラクゼーション:交感神経を鎮め、副交感神経を高めるための自分なりのリラックス法を持つことが望ましいと言われています。

認知行動療法

不眠へのこだわりが強い人は、無理に眠ろうとして却って不眠を悪化させていることが多く、このような人は、専門家の指導が必要ではありますが、認知行動療法の適応となります。睡眠制限法や刺激制御法があり、これらを合わせて、睡眠スケジュール法と言います。

睡眠制限法の要点は、

  1. 睡眠日誌から平均睡眠時間を割り出す。
  2. 起床時間を決めて、(平均睡眠時間+15分)をさかのぼった時刻にベッドに入る。
  3. 5日間、ベッドに入ってから起床までの時間の85%以上眠れたら、ベッドに入る時刻を15分早める。

刺激制御法の要点は、

  1. 眠気を感じた時のみベッドに入る。
  2. 睡眠の時のみベッドを使い、食事や、テレビを見ることに使わない。
  3. 20分以上眠れない時は、一度ベッドを離れ、再び眠気を感じてからベッドに入る。
  4. 眠れなくても毎朝同時刻に起床する。
  5. 昼寝はしない。

薬物療法

睡眠衛生指導は全ての不眠症の方に行われるべきですが、それでも不眠症が改善しない場合、薬物療法が行われます。入眠障害、不眠と共に不安が強い場合、中途覚醒、早朝覚醒など、不眠症の症状に応じて、適切な薬物を選択します。「今日の精神疾患治療指針第2版」に基づき、処方例を紹介します。

入眠障害

作用時間の短い睡眠薬が用いられます。通常は、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が使われます。耐性や依存が生じにくく、筋弛緩作用が少なく、高齢者にも使いやすいところが特徴です。

ゾルピデム(製品例マイスリー)5mg 1回1錠 1日1回就寝直前

ゾピクロン(製品例アモバン)7.5mg 1回1錠 1日1回就寝直前

エスゾピクロン(製品例ルネスタ)1mg 1回1錠 1日1回就寝直前

不眠と共に不安が強い場合

ベンゾジアゼピン系睡眠薬を用いることがあります。催眠作用と共に抗不安作用と筋弛緩作用があり、即効性がありますが、長期使用や高用量使用では耐性や依存が生じる可能性があります。

ブロチゾラム(製品例レンドルミン)0.25mg 1回1錠 1日1回就寝直前

リルマザホン(製品例リスミー)1mg 1回1錠 1日1回就寝直前

ロルメタゼパム(製品例ロラメット)1mg 1回1錠 1日1回就寝直前

中途覚醒、早朝覚醒

中間作用型あるいは長時間作用型の睡眠薬が用いられます。

クアゼパム(製品例ドラール)15mg 1回1錠 1日1回就寝直前

上記以外に、適応外使用ですが、鎮静作用の強い抗うつ剤が用いられることがあります。

まとめ

不眠症(不眠障害)の治療は、非薬物療法と薬物療法からなります。非薬物療法の中心は、睡眠衛生指導です。不眠へのこだわりが強い人は、無理に眠ろうとして却って不眠を悪化させていることが多く、認知行動療法の適応となります。薬物療法は、入眠困難、不眠と共に不安が強い場合、中途覚醒、早朝覚醒など、不眠症の症状に応じて、適切な薬物を選択します。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針第2版. 医学書院.
  • 山寺亘. (2020). 認知行動療法(CBTi). 日本臨床; 78, 267-270.

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