過敏性腸症候群の診断と治療について

はじめに

お腹の痛みが何週間も続いていたり、下痢や便秘などの便通の異常が続いていたりしてお悩みではないでしょうか。この様な状態は、様々な消化器疾患で出現する可能性がありますが、もしかすると過敏性腸症候群かもしれません。この記事では、過敏性腸症候群の診断や治療についてご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群は、器質的疾患が無いにも関わらず、小腸・大腸領域由来と考えられる症状を呈する疾患の一つで、便通異常に腹痛を伴った状態です。

過敏性腸症候群の頻度は高く、有病率は10-20%と言われています。有病率は年齢と共に低下する傾向が見られます。都市部に多くみられ、男性は下痢型、女性は便秘型が多い傾向が見られます。

過敏性腸症候群の原因は不明ですが、ストレスによる脳腸相関の異常が発症や悪化に関与していると考えられています。脳腸相関とは、中枢神経である「脳」と末梢臓器である「消化管(腸)」の間にある、神経やホルモンを介しての双方向性の調節機構のことです。

過敏性腸症候群の診断

過敏性腸症候群の診断基準をご紹介します。広く用いられているのが、現在は、Rome IV診断基準です。(平易な言葉に置き換えてあります)。

過敏性腸症候群の診断基準(RomeIV)
腹痛が最近3ヶ月の中の1週間につき少なくとも1日以上有り、
下記の2項目以上の特徴を示します。
腹痛の症状が、排便に関連する。
腹痛の症状が、排便頻度の変化に関連する。
腹痛の症状が、便形状(外観)の変化に関連する。
少なくとも診断の6ヶ月以上前に症状が出現し、最近3ヶ月間は基準を満たす必要があります。
以上のような状態の時、過敏性腸症候群の可能性があります。

また、便の形状から、下記の亜群に分けられます。

  • 下痢型:軟便や水様便が優位。
  • 便秘型:硬便や兎糞状便が優位。
  • 混合型:下痢と便秘を交互に繰り返す。

過敏性腸症候群の診断の際には、感染性腸炎、炎症性腸疾患、大腸癌などの器質的疾患が無いことが確認されていることが必要です。

過敏性腸症候群の症状

主症状は、繰り返される腹痛や下痢や便秘です。

腹痛は、排便前に強くなり、排便後に改善します。

緊張や不安によって、排便回数が増加したり、便意が強まったり、残便感や排便困難のため、トイレの時間が長くなりがちです。

便に粘液が付着するということもあります。

思春期以降は、腹部膨満、放屁、腹鳴などのガス症状が増加します。

過敏性腸症候群の治療

食事療法

炭水化物や脂質の多い食事やコーヒーや香辛料(唐辛子など)によって症状が増悪する場合がありますが、全ての方に有効な食事療法は確立されておらず、特定の食事で症状が増悪する場合、その食品を避けるなど、個別の対応が必要となります。

薬物療法

ポリカルボフィルカルシウム(商品例ポリフル):便秘型、下痢型共に有効であり、第一選択薬となることが多い。効果発現まで2ヶ月ほどかかる。

ラモセトロン(商品例イリボー):ポリカルボフィルカルシウムが無効な下痢型で用いられる。

ロペラミド(商品例ロペミン):ポリカルボフィルカルシウムが無効な下痢型で頓用で用いられる。適応外使用。

酸化マグネシウム(商品例マグミットなど):便秘型で用いられる。適応外使用。

リナクロチド(商品例リンゼス):便秘型で用いられる。

トリメブチンマレイン酸塩(商品例セレキノン):消化管運動調節薬。低用量で便秘型に、高用量で下痢型に用いられる。

ブチルスコポラミン(商品例ブスコパン):鎮痙剤。腹痛に対して用いられる。

抗うつ薬:精神的ストレスの病状への関与が重要視される場合は、抗うつ薬や抗不安薬が検討されます。

まとめ

過敏性腸症候群は、器質的疾患が無いにも関わらず、便通異常と腹痛が繰り返される疾患です。その原因は不明ですが、病状にストレスが関与していると考えられています。下痢型、便秘型、混合型に分けられ、その病状に応じて消化管機能の改善を目的とした薬物療法が行われ、精神的ストレスの関与が重要視される場合は、抗うつ薬等が検討されます。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
  • 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針第2版. 医学書院.
  • 正岡建洋, 金井隆典. (2019). 過敏性腸症候群の最新治験ー治療ー. 日本消化器病学会雑誌; 116, 570-575.

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