治らないうつの要因ー注意欠如・多動症(注意欠陥・多動性障害、ADHD)

はじめに

長期間うつ症状が治らずお悩みの方の中には、うつ症状が始まる前から職場や学校で約束やしなければならないことを忘れることが多かったり、会議やレストランに長時間座って居るのが苦手で大変な思いをしてきたという方がいらっしゃるのでは無いでしょうか。そのような方の中には、うつと注意欠如・多動症(注意欠陥・多動性障害)が併発している方が含まれているかもしれません。その様な方のために、ここではうつ病にしばしば併発する注意欠如・多動症についてご紹介したいと思います。この記事を読む事で、注意欠如・多動症の特徴とうつ病との関係を知る事が出来ます。長期間治らないうつについて正しい知識を得ることは回復のために重要です。

注意欠如・多動症(注意欠陥・多動性障害)とは

代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth Edition, DSM-IV)に掲載されていた注意欠陥・多動性障害(Attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)は、最新版のDSM-5においては注意欠如・多動症と改名されています。注意欠如・多動症は、不注意および/または多動性-衝動性が顕著なことを特徴とする疾患で、遺伝的要因と環境要因など多様な因子が発症に関与すると考えられています。その症状は幼少期より認められ、多動性症状は加齢に伴い目立たなくなると言われていますが、注意欠如・多動症の約半数は成人になっても何らかの症状が持続すると言われています。以下にDSM-5に掲載されている注意欠如・多動症の診断基準について、ご紹介したいと思います。

注意欠如・多動症の診断基準

A. (1)および/または(2)の様な特徴を持つ、不注意および/または多動性-衝動性を症状とする疾患です。

(1)不注意:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続している。

  • しばしば不注意な間違いや見落としをする。
  • 集中し続けるのが難しい。
  • 話しかけられた時に、聞いてない様に見えることがある。
  • 指示に従えず、言われたことをやり遂げることが出来ない。
  • 一連の作業を順序立てて行うことが難しい。整理整頓が出来ない。
  • 根気強く取り組む必要がある課題を避けたり、嫌ったり、いやいや行ったりする。
  • 持ち物を無くす。
  • 気が散りやすい。
  • 忘れっぽい。

(2)多動性-衝動性:以下の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月持続している。

  • 手足をそわそわ動かしたり、もじもじしたりする。
  • 席についていなければいけない状況で、席を離れてしまう。
  • やってはいけない状況で、走り回ったり、高い所に登ってしまったりする。
  • 静かに過ごすことが出来ない。
  • 常に動いていて、じっとしていることが出来ない。
  • 喋りすぎる。
  • 自分の順番を待つのが苦手。
  • 他人の妨害をしたり、邪魔をしたりする。

B. 不注意または多動性-衝動性の症状のうち幾つかが12歳以前から認められた。

C. 不注意または多動性-衝動性の症状のうち幾つかが2つ以上の状況(家庭、学校など)で認められる。

D. これらの症状が、学業や仕事の妨げになっている。

A〜Dの全てに当てはまる場合、注意欠如・多動症の可能性があります。

治らないうつの要因としての注意欠如・多動症

注意欠如・多動症は様々な併存疾患が認められると報告されています。以前には認められていませんでしたが、DSM-5からは、自閉スペクトラム症との併存が認められており、かなりの頻度の併存があると報告されています。注意欠如・多動症の約17.5%にうつ病、約8.5%に躁うつ病の併存が認められたとの報告があります。逆に、うつ病の成人に、9.4%で注意欠如・多動症の併存が認められたと報告されています。他の報告では、13.1%に感情障害(うつ病や躁うつ病)、10.8%に薬物乱用障害、9.5%に不安障害の並存が認められたとあります。注意欠如・多動症を抱えていても、未だ診断されていない方が、ケアレスミスを繰り返したり、仕事の締め切りが守れなかったり、遅刻が多いなどのために、上司に繰り返し叱責され、そのストレスからうつ症状を発症した場合、ベースにある注意欠如・多動症が治療されない限り、ストレスが持続するため、長期間治らないうつや、何度も繰り返す適応障害となる可能性があります。長期間治らないうつや何度も繰り返す適応障害においては、注意欠如・多動症が併発していないか診断を再検討し、注意欠如・多動症がベースにあり、うつ症状が二次的に生じているケースでは、うつ症状改善のためには注意欠如・多動症を同時に治療していくことが重要です。

まとめ

注意欠如・多動症の併発が、長期間治らないうつの要因となっているケースがあります。注意欠如・多動症とは、不注意および/または多動性-衝動性が顕著なことを特徴とする疾患で、遺伝的要因と環境要因など多様な因子が発症に関与すると考えられています。その症状は幼少期より認められ、多動性症状は加齢に伴い目立たなくなると言われていますが、注意欠如・多動症の約半数は成人になっても何らかの症状が持続すると言われています。注意欠如・多動症は様々な併発症が認められると報告されており、うつ病の併発も珍しくありません。長期間治らないうつや何度も繰り返す適応障害においては、注意欠如・多動症が併発していないか診断を再検討し、注意欠如・多動症がベースにあり、うつ症状が二次的に生じているケースでは、うつ症状改善のためには注意欠如・多動症を同時に治療していくことが重要です。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
  • うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害. (2016). 日本うつ病学会治療ガイドライン II.
  • 篠山大明. (2018). ADHDとうつ病. Depression Journal, 3:22-23.
  • 中村和彦. (2012). 大人のADHDの診断. 治療, 94:1382-1386.

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