高齢者のうつ病の症状について

はじめに

高齢者の方の中には、最近気持ちが沈みがちで、億劫だったり、食欲が無かったり、夜眠れなかったり、病気のことや将来のことが気になって落ち着かず、自分は病気なのではないかと不安な方がいらっしゃるのではないでしょうか?この様な状態は様々な精神的不調に伴って出現しますが、もしかするとうつ状態かもしれません。この記事では、高齢者のうつ病の特徴をご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

高齢者のうつ病の診断について

高齢者であっても、うつ病の診断基準は、基本的に成人のそれと同じです。世界的に精神疾患の診断に使われている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)に掲載されている、うつ病の診断基準は別の記事で紹介しています。

高齢者のうつ病の症状について

高齢者の抑うつに関連する様々な要因としては、

  • 老化に伴う身体機能の低下
  • 慢性身体疾患
  • 認知機能障害
  • 社会交流の乏しさ
  • 経済的困窮
  • 精神疾患の既往
  • アルコール依存、などがあります。

一般的な高齢者のライフサイクルにおいて、出現しやすい要因が複数含まれていることが分かります。

高齢者のうつ病の特徴としては、

  • 心気的(何か病気にかかっているのではないかと過剰に心配する状態)・身体的訴えが多い
  • 不安や焦りが強い
  • しばしば仮性認知症に代表される認知機能障害を呈する。仮性認知症とは、うつ病の意欲低下や思考力低下が顕著なため、ぼんやりして反応が遅くなり、一見認知症のように見える状態です。
  • 長引きやすい
  • 罪悪感や性的関心に乏しい、などがあります。

高齢者のうつ病の捉え方の一つとして、血管性うつ病という概念があります。これは、高齢になり初めてうつ病を発症した例に多く、脳血管病変を伴い、抑うつ気分や悲哀、自責などよりも自発性低下が目立ち、薬物への反応性が乏しく、より慢性の経過を辿ることが多い、また将来認知症に進むリスクが高いと言われています。

高齢者のうつ病の鑑別診断

高齢者のうつ病の診断にあたっては、下記のような疾患との鑑別が必要です。

双極性障害

高齢者の双極性障害でも、成人の場合と同様、その経過の多くの期間は、抑うつ状態であるとされています。診断の時点で抑うつエピソードを呈していたとしても、実際は双極性障害の経過中に抑うつエピソードを呈しているという可能性があります。実際、高齢者のうつ病と診断されたケースの凡そ3分の1は、双極性障害であると言われています。

認知症

うつ病と認知症は鑑別が困難な場合が少なくありません。その要因としては、

  • うつ病と認知症に類似した臨床症状があること(仮性認知症など)
  • 認知症に抑うつ状態が高率に合併すること
  • うつ病から認知症への移行が多いこと、などが挙げられます。

身体疾患に伴う抑うつ状態

高齢者は様々な身体疾患を有していることが多く、身体疾患やそれに伴う治療薬に起因するうつ状態の可能性もあります。

うつ状態を合併しやすい身体疾患:甲状腺機能障害、パーキンソン病など。

うつ状態を引き起こしやすい薬剤:一部の降圧剤(ベータブロッカー、カルシウム拮抗薬など)、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗がん剤など。

アパシー

アパシーとは、認知症、パーキンソン病、脳卒中などに伴う、無関心、無頓着が目立つ、活動性の低下した状態です。

自発性の低下や意欲の低下も見られ、うつ病と混同されやすい状態です。

高齢者のうつ病とアパシーの鑑別点としては、うつ病では自責感や絶望感といった感情面の症状が見られるのに対して、アパシーでは、本人の精神的苦痛が目立たないという点です。

高齢者のうつ病と認知症の関係について

仮性認知症は、病気が治れば、認知機能も病前の状態に戻ると考えられていましたが、近年仮性認知症が治った後に、認知機能低下が再発したり、そのまま認知症に移行する場合も報告されています。

うつ病の既往が、認知症、特にアルツハイマー病の重要な危険因子であることが報告されています。

うつ病の再発を繰り返すと、認知症を発症しやすいと報告されています。

以上より、うつ病の予防が、認知症の予防にもつながるのではないかと考えられています。

まとめ

高齢者のうつ病の症状としては、心気的・身体的訴えが多い、不安焦燥が強い、認知機能障害を合併しやすい、などの特徴があります。また、認知症や身体疾患に伴う抑うつ状態やアパシーとの鑑別が重要です。近年、うつ病の予防が、認知症の予防にもつながるのではないかと考えられています。

参考文献

  • 高齢者のうつ病治療ガイドライン. (2020). 日本うつ病学会治療ガイドライン.
  • 藤瀬昇. (2019). 高齢者の気分障害とメンタルヘルス. 精神医学, 61: 31-37.

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