認知症の診断について

はじめに

この記事を読んで頂いている方の中には、最近物忘れが多くなった気がして、自分は認知症なのではないかと気になっている方や、クリニックや病院で認知症の検査を勧められたが、どのような症状があるのか知りたいという方や、ご家族がもしかすると認知症なのではないかと不安に感じている方がいらっしゃるかもしれません。そのような方のために、この記事では、認知症の診断についてご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

認知症とは

認知症とは、一度正常レベルに達した認知機能が、以前に比較して低下し、自立した日常生活に支障を来した状態です。認知症は、大脳の特定の部位が障害される病気であって、脳全体の障害ではありません。手足の運動などを直接にコントロールしている大脳の部位は障害されないため、運動麻痺などの症状は無く、障害される部位は主として、認知機能をつかさどる部位です。我が国の認知症の患者数は2012年時点で、65歳以上の高齢者の約15%、約460万人と推定されています。

認知症の診断について

まず、認知症の診断基準をご紹介します。代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)では、以下のような状態を認知症と呼びます。

認知症の診断基準(DSM-5)
A. 1つ以上の認知領域(複雑性注意、実行機能、学習および記憶、言語、知覚ー運動、社会的認知)において,以前の水準から有意な認知の低下がある。
B. 毎日の活動において.認知の低下が自立の妨げになっている(すなわち、最低限,請求書を支払う,内服薬を管理するなどの複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。
C. その認知の低下は,せん妄の状況でのみ起こるものではない。
D. その認知の低下は,他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病,統合失調症)。
以上のA~Dの全てに当てはまる時、認知症の可能性があります。
Aで挙げられている6つの認知領域のうちの1つでも有意な低下が見られれば、認知症の可能性が有ります。

6つの認知領域について

複雑性注意

一定時間あるものに注意を向け続ける(持続的注意)ことや、様々な刺激がある中で特定のものへの注意を維持する(選択的注意)ことや、並行して複数のものへ注意を向ける(分配性注意)ことなど、です.

この機能の障害により、通常の作業に以前より時間がかかる、日常的な業務の中で誤りが見つかるようになります。

実行機能

複雑な課題の実行に際して,問題点を分析し,解決策を考えたり,幾つかの選択肢から最適なものを選んだり(意思決定)、問題解決の計画を立てたり(計画性)する能力のことです。短時間情報を記憶し、かつそれを操作する能力(ワーキングメモリー)も含まれます。

この機能の障害により、多くの段階を踏む課題の解決に時間がかかるようになったり、複数の処理を同時に行う仕事が困難になったり、整理・計画・意思決定に余分な努力を要するようになります。

学習及び記憶

言葉や数字のリストを、後に続いて復唱する能力(即時記憶)や、最近の出来事(朝ご飯の内容など)についての記憶(近時記憶)や、一般的な知識や常識などについての記憶(意味記憶)を保持している能力などが含まれます。

この機能の障害により、最近の出来事を思い出すのに苦労するようになります。

言語

物の名前を言ったり(呼称)、言いたいことを言葉で表す能力(喚語)など、話す能力である表出性言語と,言葉を理解する受容性言語の能力が含まれます。

この機能の障害により、言いたい言葉が出てこない喚語困難が目立つようになります。特定の用語を一般的な言葉で代用することが増えます。

知覚ー運動

物を目で見て識別する能力(視知覚)や、模写など目と手の協調を必要とする運動(視覚構成)や、知覚と動作を協調させる能力(知覚ー運動)などが含まれます。

この機能の障害により、集中していないと道に迷いやすくなり、大工仕事、組み立て、縫い物のような空間作業に以前より大きな努力を必要とするようになります。

社会的認知

様々な表情における感情を読み取る能力(情動認知)や、他人の思考や欲求や意図など精神状態を想像する能力(心の理論)が含まれます。

この機能の障害により,顔の表情を読んだりするのが難しくなり、共感することが減り、内向的になったり逆に外交的になったり、しばしば人柄が変わったように見えることが有ります。

まとめ

認知症とは、以前に比較して認知機能が低下し、自立した日常生活に支障を来した状態です。認知症の診断は、6つの認知領域のうち少なくとも一つの領域において認知機能の低下が認められる場合になされます。その6つの認知領域とは、複雑性注意、実行機能、学習及び記憶、言語、知覚ー運動、社会的認知です。

参考文献

高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.

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