はじめに
周りからは痩せていると言われているにも関わらず、体重が少しでも増えることがとても嫌で、更にダイエットをしなければいけないと考えている方はいらっしゃいませんか?その様な方の中には、いわゆる拒食症(正式には神経性やせ症あるいは神経性無食欲症)の方がおられるかも知れません。この記事を読むことで、拒食症とはどの様な病気なのか、その治療においてどの様なことが重要なのかが分かります。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。
拒食症(神経性やせ症)とは
拒食症(神経性やせ症)は、摂食障害(心理的背景を有し、極端な節食や過食として現れる食行動の障害)の一つです。自分の体型や体重に対する歪んだ捉え方があるために、明らかに痩せた状態となります。
若年女性の0.5〜1%がこの症状を抱えていると言われており、男女比は1対10〜20で女性に多いと報告されています。思春期から20歳代に発症する事が多いと言われています。
拒食症(神経性やせ症)の診断、症状
以下に、代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)に掲載されている神経性やせ症の診断基準を平易な言葉でご紹介したいと思います。
A. 摂取カロリーを制限し、正常の下限を下回る、有意な低体重になります。
B. 低体重であるにも関わらず、体重増加または肥満に対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動(自ら誘発する嘔吐、下剤の使用、過度の運動など)がみられます。
C. 自分の体重または体型への強いこだわりを持っており、体重や体型が自己評価に過剰に影響しており、または現在の低体重が深刻だと言う認識を欠いています。
以上、A, B, Cを全て満たす場合、神経性やせ症である可能性があります。
神経性やせ症には二つのパターンがあり、
- 摂食制限型:主にダイエットや断食や過剰な運動を行い、過食や排出行動(自己誘発性嘔吐、下剤、利尿薬または浣腸の乱用)が無い。
- 過食・排出型:過食や排出行動(自己誘発性嘔吐、下剤、利尿薬または浣腸の乱用)を繰り返している。
身体面の症状としては、正常の下限を下回る有意な低体重が認められます。世界保健機構では肥満ややせの程度の指標であるBody Mass Index (BMI )の正常範囲を18.5~24.99としていますので、神経性やせ症の重症度は、下記の様になります。
BMI = 体重(kg)/[身長(m)]の2乗、で算出します。
- 軽度:17~18.49
- 中等度:16~16.99
- 重度:15~15.99
- 最重度:15未満
体重減少と低栄養状態が生じ、恐らくその二次的な結果として、ホルモンの異常が生じ、女性では無月経、男性では性欲、性的能力の減退が生じます。もし発症が前思春期であれば、思春期に起こる第2次性徴などに遅れが生じます。また、極端な低栄養状態にありながら自分では疲労感を感じず、過活動気味に仕事や学校生活を送っていることも多いと言われています。
心理面の症状として、肥満恐怖、体重や体型が自己評価に過剰に影響すること、低体重の重大さを否認すること、などが認められ、身体が衰弱した感覚を感じない一種の離人症状を伴っています。その他、過活動、運動強迫、不眠などが見られます。
拒食症(神経性やせ症)の並存症
神経性やせ症のうち、1.5~6割は、うつ病を併発していると報告されています。経過の中で、摂食障害 の前にうつ病が表れるもの、同時に表れるもの、後から表れるものが約3分の1ずつであると言う報告があります。いずれにしても、神経性やせ症とうつ病は、かなりの割合で併発していると言えます。
拒食症(神経性やせ症)の治療
『今日の精神疾患治療指針第2版』によると、神経性やせ症の場合は、身体面の治療にばかり重点を置くと、治療中断の可能性が高まり、心理面の治療にばかり重点を置くと、いつまでたっても低体重が改善しないと言うことがあります。そのため、治療のどの時期においても、心身両面の治療が重要だと考えられています。
身体面の治療
食事指導:栄養士による専門的な指導のもと、通常の食事で栄養状態の改善を図るのが理想的ですが、当初は一度に十分量食べれないこともあるかもしれません、その様な時は食事回数を3回から、間食も含めて5回などに増やす必要があるかもしれません。1ヶ月に1~2kgの体重増加は身体面への負担が少なく良いペースと言われています。現在の日々の摂取カロリーより、1日当たり200-300キロカロリー多く摂取することを1ヶ月継続すると、約1kgの体重増加が期待出来ます。
栄養剤:液体の経腸栄養剤は、吸収が良いため、効率的に栄養摂取が出来ます。しかし、栄養剤が、「カロリーの塊」の様に感じられ、摂取に抵抗が有れば、1日の栄養摂取の一部を経腸栄養剤に置き換え、食事と併用することも出来ます。外来では対応出来ない低栄養の時は入院した上で、 体重増加を目的とした行動療法、経鼻腔栄養、高カロリー輸液などが必要な場合があります。
過食・排出型では、基本的には神経性過食症の治療に準じますが、絶食と過食嘔吐の悪循環を繰り返さない様に、規則正しい食事スケジュールを作ることが大事です。
心理面の治療
低体重が著しい時期は、疲労感や体調の悪さなどへの気づきを促したり、過活動に注意を促すなどの働きかけを行います。家族との面接も行い、家庭内に問題があれば、解決できるよう援助します。
身体が危機状態を脱した段階で、外来治療では、拒食に至った心理的背景について話し合います。神経性やせ症の方は、自分の感情に自分で気づきにくい、自己評価が低い、完全癖が強い、などの傾向をもち、その結果、何らかの「生きづらさ」を抱えていらっしゃる方が多いと言われています。
まとめ
拒食症(正式には神経性やせ症)は、摂食障害(心理的背景を有し、極端な節食や過食として現れる食行動の障害)の一つです。節食などにより正常の下限を下回る低体重となり、低体重であるにも関わらず、肥満恐怖、体重や体型が自己評価に過剰に影響すること、低体重の重大さを否認すること、などが認められます。拒食症の治療では、心身両面の治療が必要です。
参考文献
- 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
- 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
- 永田俊彦. 摂食障害を精神科診療所で診る. (2020). 医学と薬学, 77, 1265-1272.
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