治らないうつの要因ー自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害、広汎性発達障害)

はじめに

長期間うつ症状が治らずお悩みの方の中には、うつ症状が始まる前から、コミュニケーションが苦手で、職場や学校での人間関係で悩むことが多かったという方がいらっしゃるのでは無いでしょうか。そのような方の中には、うつ病と自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)が併発している方がいらっしゃるかもしれません。その様な方々のために、ここではうつ病にしばしば併発する病気である自閉スペクトラム症についてご紹介したいと思います。この記事を読む事で、自閉スペクトラム症の特徴とうつ病との関係を知る事が出来ます。うつ病に併発する病気について正しい知識を得ることは、うつ病からの回復のために重要です。

自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)とは

代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth Edition, DSM-IV)に掲載されていた広汎性発達障害のカテゴリーは、最新版のDSM-5においては自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)と改名されています。自閉スペクトラム症は、社会的コミュニケーションの障害と、行動、興味、活動の限局を特徴とする疾患で、典型的には1歳代から早期の徴候が認められ、その症状はライフステージを通じて持続する傾向があります。多数の遺伝子の各種変異が相互に影響し合い発症リスクを高め、環境要因も症状発現に関与すると考えられています。以下にDSM-5に掲載されている自閉スペクトラム症の診断基準について、平易な表現に置き換えてご紹介したいと思います。

自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)の診断基準

A. 社会的コミュニケーションの障害があり、以下の全てが当てはまる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。

(1)相互の対人的情緒的関係の欠陥:例えば、対人関係の距離感が掴めなかったり、日常会話が出来なかったり、興味や感情を共有することの少なさ、コミュニケーションを自ら取ったり応じたりすることが出来ない。

(2)非言語的コミュニケーションの欠陥:例えば、身振りや表情など非言語的コミュニケーションを理解し用いることが難しい。

(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥:例えば、その場に合った行動をとることの難しさや想像遊びを他者と一緒に楽しんだり、友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如。

B. 行動、興味、または活動が限定的、反復的。以下のうち少なくとも2つが当てはまる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。

(1)同じ事を繰り返すまたは反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な動きを繰り返す、おうむ返し、独特な言い回しなど)。

(2)変わらないことや習慣への頑ななこだわり、または儀式的な行動(例:小さな変化に対しても強い苦痛を感じる、新しい状態へ移ることの困難さ、柔軟性に欠ける考え方、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べることを望むなど)。

(3)興味が非常に偏っている(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)。

(4)感覚が過敏または鈍感、または感覚刺激に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)。

C. 症状は発達早期に存在していなければならない

D. その症状が、社会的、職業的、その他の重要な領域で大きな障害を引き起こしている

E.これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明出来ない。

A~Eが全て当てはまる場合、自閉スペクトラム症の可能性があります。

治らないうつの要因としての自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)

自閉スペクトラム症に併発する精神疾患については、様々な報告がありますが、ある研究においては、94%が何らかの精神疾患に罹っているとされ、最も多いのは不安症で、54%の方が、次いで破壊的行動障害で48%、次いで気分障害(うつ病や躁鬱病など気分の変動が症状の中核である疾患)で37%の方が併発していました。他には、自閉スペクトラム症の29%にうつ病、 8%に躁うつ病を認めたという報告や、自閉スペクトラム症の53%に気分障害の併存が、34%に抗うつ薬での治療歴が認められたというものもあります。以上より、自閉スペクトラム症においては、併存する精神疾患(特に不安症や気分障害)が多く、うつ病の併発も稀では無いと考えられます。自閉スペクトラム症を抱えていても、未だ診断されていない方が、学校や職場で周囲とのコミュニケーションが上手く取れず、そのストレスからうつ症状を発症した場合、ベースにある自閉スペクトラム症に何らかの対処がされない限り、ストレスが持続するため、長期間治らないうつや、何度も繰り返す適応障害となる可能性があります。自閉スペクトラム症がベースにあり、うつ病が二次的に発症しているケースでは、うつ病の改善のためには自閉スペクトラム症を同時に治療していくことが重要です。

まとめ

自閉スペクトラム症の併発が、長期間治らないうつの要因となっているケースがあります。自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)は発達早期に発症し、その症状はライフステージを通じて持続する傾向があります。遺伝的要因に加え、環境要因も症状発現に関与すると考えられています。社会的コミュニケーションの障害と、行動、興味、活動の限局を特徴とする疾患です。自閉スペクトラム症においては、併存する精神疾患(特に不安障害や気分障害)が多く、うつ病の併発も稀ではありません。長期間治らないうつにおいては、自閉スペクトラム症の併発の可能性を検討し、自閉スペクトラム症がベースにあり、うつ病が二次的に発症しているケースでは、うつ病の改善のためには自閉スペクトラム症を同時に治療していくことが重要です。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
  • うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害. (2016). 日本うつ病学会治療ガイドライン II.

  

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