はじめに
満足に仕事を続けられなかったり、ひきこもり状態の方の中には、自分は人より劣っているから、批判されないかと不安を感じていたり、自分の考えを言えば人から非難されたり馬鹿だと思われたりするのではないかと不安を感じている方はいらっしゃいませんか?その様な方の中には、回避性パーソナリティ障害(回避性人格障害)の方がおられるかも知れません。この記事を読むことで、回避性パーソナリティ障害とはどの様な病気なのか、その症状や克服のために重要なことが分かります。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。
回避性パーソナリティ障害の症状
パーソナリティとは、考え方、感じ方、行動の仕方、対人関係などに現れる、その人の特徴で、人格とも呼ばれます。パーソナリティ障害とは、そのような特徴の偏りが著しく、職場や学校など社会生活に支障を引き起こしている状態のことです。その症状は青年期または成人期早期までには始まり、以後長期間続いています。回避性パーソナリティ障害の特徴は、自分に自信が持てず、引っ込み思案で、人から批判されたり非難されることを非常に恐れる、というものです。代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)によると、下記の症状のうち、4つ以上当てはまる場合、回避性パーソナリティ障害の可能性があります。
- 批判、非難、または拒絶される事を恐れる余り、仕事で人と会うことを避ける
- 好かれていると確信出来なければ、人と関係を持ちたがらない
- 恥をかかされる、または馬鹿にされる事を恐れて、親密な関係の中ですら遠慮する
- 対人関係において、批判される、または拒絶されることに心がとらわれている
- 自分に自信が持てず、新しい対人関係に対して消極的になる
- 自分は社会でやっていけない、人間として長所が無い、または人より劣っていると思っている
- 恥をかくことを恐れ、個人的な危険を冒すこと、または何か新しい活動に取り掛かることに、異常なほど引っ込み思案である
上記が回避性パーソナリティ障害の症状ですが、実際に外来に来られる方は、仕事や友人関係で不安やストレスを感じながらも、それに耐えて仕事や学業を続けている方から、友人に会ったり、仕事で他人に会うことを避けて現在ひきこもり状態の方までいらっしゃいます。
回避性パーソナリティ障害の克服方法
回避性パーソナリティ障害の方は、自分に自信が持てず、周囲から批判されたり拒絶されたりするのではないかという不安があり、自分や周囲に対するマイナス思考を持ちやすく、うつ症状を併発することもあります。このような不安症状に薬物療法が一定の効果が期待出来ます。
回避性パーソナリティ障害の方は、自分は人よりも劣った恥ずかしい存在である、といった信念を持っていることが多いです。そのため、自分の考えや思っていることを曝け出せば、笑われたり馬鹿にされるに違いないと信じています。この傾向を改善するためには、自分を隠そうとする行動パターンから、背伸びせず等身大の自分を出していく行動パターンに少しずつ変えていくことが必要です(この辺りの回避性パーソナリティ障害の克服方法については、岡田尊司氏の下記参考文献『生きるのが面倒くさい人』に詳しく記されています)。また、親が厳格すぎたり、過度に支配的過ぎると、子は親に言われるがままに行動するようになり、自分で考え、決めて、行動する(主体的に行動する)ことが無くなると考えられます。いざ社会に出て、主体的に行動しなければいけなくなると、これまでやってこなかったために、自信が持てず、批判されることを恐れて消極的になると考えられます。この傾向を改善するには、どんなことでも、自分で考え、決めて、行動することが必要です。相手の意向に従うばかりではなく、主体的に行動するのです。
治らないうつの要因としての回避性パーソナリティ障害
青年期から成人期早期にかけて回避性パーソナリティ障害を発症した方が、何らかのストレスに遭遇し、うつ症状を併発するケースが多いと考えられます。回避性パーソナリティ障害の方は、自分に自信が持てず、人から批判されたり非難されることを非常に恐れるため、ストレスに遭った時、自分や周囲に対するマイナス思考を持ちやすく、これがうつ症状を引き起こすことがあります。つまり、回避性パーソナリティ障害がベースにある方に、ストレスをきっかけとして、二次的にうつ症状が生じるケースが少なくありません。回避性パーソナリティ障害を発症していても、それは性格だと考えている方が多く、その症状自体を病気の症状と考える方は少ないため、診察場面では、最近の不安や抑うつ症状を主として訴えます。そのため、診断名としては、社交不安症(社交不安障害)、適応障害、うつ病、気分変調症などとなることが多いと考えられます。不安症状やうつ症状に対して、抗うつ剤による薬物療法が行われた場合、一定の効果が得られる可能性はありますが、ベースにある回避性パーソナリティ障害の治療が行われなければ、自分や周囲に対するマイナス思考は続くため、抗うつ剤が効果不十分や無効な場合もあり、この時治らないうつとなります。実際、うつ病の難治性に関する因子の研究で、パーソナリティ障害を併発していると、うつ病が治りにくいことが報告されており、長期間治らないうつ病(難治性うつ病)においては、回避性パーソナリティ障害が併発している可能性を検討するべきだと考えられます。
回避性パーソナリティ障害の要因
回避性パーソナリティ障害の原因は不明ですが、遺伝的要因が最も大きく、次いで環境要因であると言われています。環境要因としては、愛情のこもった養育をあまり受けられなかったことや過保護過干渉などの養育環境が考えられています。また、パーソナリティの形成に関係する要因として、愛着スタイルがあります。愛着スタイルは、母親など養育者との情緒的交流を通じて形成されてきた、自己と他者に関するイメージで、自尊感情や対人関係の捉え方など、パーソナリティの重要な部分を形成すると考えられています。回避性パーソナリティ障害の方に認められる愛着スタイルは、恐れ型や拒絶型が中心です。愛着スタイルの恐れ型と拒絶型の特徴は、以下の通りです。
- 恐れ型:自分には(愛される)価値が無いと思っており、他者は信頼出来ず、自分のことを拒絶すると思っている。親密な関係を避けることにより、他者から拒絶されることを避けている。
- 拒絶型:自分は自立してやっていくものだと思っている。他者に頼ることも頼られることも好まず、親密な関係を避けることで、対人関係で失望することを避けている。
いずれも、他者に対する否定的なイメージを抱いており、親密な関係を避ける傾向があります。親密な関係にある相手からも嫌われるのではないかという「見捨てられ不安」を感じやすいことに現れる、否定的な自己イメージを抱いているのが恐れ型で、見捨てられ不安が強くないのが拒絶型です。
恐れ型は、親や家族から否定的な言葉を浴びせられたり、その人が助けを求めた時に、優しく応じるのではなく、冷たく突き放される様な境遇で育つことなどが重要な環境要因と考えられています。拒絶型は、親による関心や反応が乏しい境遇で育つことや、親が厳格すぎたり、過度に支配しすぎることが、重要な環境要因と考えられています。
まとめ
回避性パーソナリティ障害とは、自分に自信が持てず、引っ込み思案で、人から批判されたり非難されることを非常に恐れる、というパーソナリティのため、職場や学校など社会生活に支障を引き起こしている状態のことです。自分や周囲に対してマイナス思考を抱きやすく、二次的にうつ症状を引き起こす場合が有ります。回避性パーソナリティ障害の治療としては不安症状に対する薬物療法のほか、その克服のためには、背伸びせず等身大の自分を出していくことや、相手の意向に従うばかりではなく、主体的に行動することを心掛けることが大切です。
参考文献
- 岡田尊司. (2016). 生きるのが面倒くさい人. 朝日新聞出版.
- 岡田尊司. (2013). 回避性愛着障害. 光文社新書.
- 永田利彦. (2016). 回避性パーソナリティ障害. 臨床精神医学. 45 (増刊号):507-510.
コメント