はじめに
突然明らかに別人のように振る舞うことがあると周囲の人から指摘されたり、頭の中にもう一人の自分のような存在を感じることがあったり、小学校時代のことが殆ど思い出せず、なぜだろうと感じている方はいらっしゃらないでしょうか?そのような方の中には、解離に伴う障害(解離症あるいは解離性障害と言います)を抱えている方がいらっしゃるかもしれません。この記事を読むことで、解離性障害とはどはのような病気なのか、どのような治療法があるのか知ることが出来ます。病気について正しい知識を得る事は、その改善のために重要です。
解離症(解離性障害)とは
カプラン臨床精神医学テキスト第2版によると、人は自分には1つの基本的な人格があり、統合された自己感覚を有すると感じています。しかし、解離性障害では、唯一の意識をもつという感覚が失われていて、自分が誰なのかわからずに混乱したり、複数の人格を経験したりします。統合された思考、感情、行動といった、特定の人格を人に付与するものが、解離性障害では異常となっています。
代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)においては解離症群/解離性障害群には、解離性同一症/解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失症/離人感・現実感消失障害などが含まれます。
解離症(解離性障害)の症状
解離性同一症/解離性同一性障害
『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引』によれば、解離性同一症とは、2つまたはそれ以上の、他とははっきり区別される人格が認められる状態のことです。それぞれの人格は独自に思考し、度々入れ替わるため、日々の出来事や重要な個人的情報など様々な出来事が思い出せないと言う事が起こります。日常生活で主に行動している人格のことを主人格と言います。個々の人格部分の存在は、過去に直面した心的外傷のストレスに対処したり、それを克服したりするうえでの適応的な試みを表しており、解離は心的外傷に対する自己防衛として生じると考えられています。
解離性健忘
『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引』によれば、解離性健忘とは、ある時期の体験、それは心的外傷的または強いストレス体験であることが多いのですが、について思い出せない状態のことです。健忘症状と共に、他とはっきり区別される人格が認められれば、解離性同一症と診断されます。
離人感・現実感消失症/離人感・現実感消失障害
離人感
自らの考え、感覚、感情、身体などから離脱している体験、またはそれらに現実感を感じられない、それらを外部から傍観している様な体験のこと。自分が自分でない様に感じたり、自分をいつも上から見ている体験などに当たります。
現実感消失
周囲から離脱している体験、またはそれらに現実感を感じられない体験。人や物が非現実的で、夢の様に感じられます。
統合失調症、パニック障害、うつ病、急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害、または他の解離性障害では無い場合に、離人感・現実感消失症と診断されます。
解離症(解離性障害)の治療
『今日の精神疾患治療指針第2版』によると、解離性健忘の治療の方針は、並存症に対する薬物療法以外は、精神療法が中心で、3つの段階に分けられるとされています。解離性同一症の治療方針も基本的には同じです。
第1段階:安全性の確保、症状の安定化と軽減
解離状態に見られる不安や恐怖を和らげ、安心感や安定感をもたらすことが中心となる段階です。生活環境を安全なものとする、必要なら虐待などが起こる可能性がある環境から離れる、などがこの段階に当たります。睡眠、食欲、気分などの安定を図るため、薬物療法を検討します。
第2段階:外傷記憶に向き合い、恐怖を和らげる。
外傷記憶に向き合い、それにまつわる不安や恐怖を和らげる事が中心となります。不安が強いなど症状が安定していない場合は、この段階に着手することは困難かもしれません。症状が安定してきた状態で、徐々に強いストレスとなった出来事について、周辺領域のことから取り上げます。
第3段階:日常生活の範囲を拡げる。
日常生活における不安や恐怖を克服し、日常生活に積極的に関与する段階です。この段階では、これまで恐怖から避けていた日常生活の範囲を次第に拡げていき、様々なストレスへの対処法を身につけていきます。
まとめ
解離症(解離性障害)には、2つまたはそれ以上の、他とははっきり区別される人格が認められる解離性同一症、心的外傷的または強いストレス体験などについて思い出せない解離性健忘、自らの考え、感覚、感情、身体などから離脱していると感じたり、周囲から離脱していると感じたりする離人症・現実感消失症などが含まれます。解離症(解離性障害)の治療としては、精神療法が中心で、安全性の確保、外傷記憶に向き合う、日常生活の範囲を拡げる、というように段階的に進めていきます。
参考文献
- 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針. 第2版. 医学書院.
- 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
- 岡野憲一郎. (2015). 精神神経学雑誌. 解離性障害をいかに臨床的に扱うか. 117, 399-412.
- 井上令一、四宮滋子. (2004). カプラン臨床精神医学テキスト第2版. メディカル・サイエンス・インターナショナル.
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