うつ状態が認められる主な病気について

はじめに

気分が落ち込み、やる気が起きず、何にも興味がわかない、この様な状態が続き、自分は病気なのではないかと不安に感じたりしていませんか?その様な状態は様々な精神的な不調において出現しますが、もしかするとうつ状態かもしれません。この記事では、自分のゆううつな状態は病気ではないかと不安に感じておられる方々に、うつ状態が認められる病気の特徴をご紹介したいと思います。この記事を読むことによって、主なうつ状態が認められる病気の特徴と、それらを大まかに区別するポイントを知る事が出来ます。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

うつ状態とは

うつ、という言葉で表される状態は、友達と喧嘩をしてちょっと気持ちが落ち込んでいるという状態から、何日間も気持ちが沈み、どうしても仕事にも行けない、という状態まで、かなり幅があると思います。精神科で言う「うつ状態」とは、はっきりとした原因無しに気持ちが落ち込み、何も楽しいと感じられず、何にも興味がわかない、億劫でやる気がでない、という様な精神状態を指します。うつ状態においては、細かく分けると、下記の様に、感情、思考、意欲など精神の様々な機能及び身体面などの症状が認められ、学校生活や仕事や人間関係に影響が出て来ます。

  • 感情の症状(抑うつ気分):ゆううつ、何となく淋しい、何にも感情が動かない、何にも興味がわかない。
  • 思考の症状:考えようとしてもアイデアが浮かばない、判断力、決断力が低下する、自分はダメな人間だと感じる、将来に希望が持てない。
  • 意欲の症状:物事をやらなければいけないとわかっているのに億劫で、やる気がわかない。新しいことを計画し、実行に移すのが困難。
  • 身体の症状:眠れない、食欲がない、体がだるい。

うつ状態は、様々な病気の1つの症状として現れますので、以下に挙げる病気以外でもうつ状態となる事がありますが、ここでは精神科の臨床場面で診ることが多い、うつ状態或いはそれとよく似た症状を認める主な病気について説明します。世界的に精神疾患の診断に使われている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)に掲載されている、それぞれの病気の診断基準を、平易な表現に置き換えています。

うつ状態が認められる主な病気の特徴

うつ病

うつ病や躁うつ病で、症状が現れる期間を、エピソードと言います。

うつ病の診断基準(DSM-5)
A. 抑うつエピソード:以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が、2週間以上ほぼ毎日続いており、そのうち少なくとも1つは、1または2である。
常にゆううつで気持ちが落ち込んでいる。
常に何をしても面白くなく、何にも興味がわかない。
普段にはなく体重(或いは食欲)が減っている、または増えている。
常に眠れない、または寝過ぎる。
常に落ち着かずじっとしていられない、または会話や行動や応答が遅く少ない。
常に疲れを感じる、または気力が落ちている。
常に自分はダメな人間だと感じる、または自分が悪いと自分を責める。
常に考えようとしてもアイデアが浮かばない、物事に集中できない、または決断出来ない。
死について考える、死にたいと思う、または自殺の計画を立てる。
B. 抑うつエピソードだけが認められ、躁病エピソードまたは軽躁病エピソード(下記参照)が存在した事がない。
以上のAとBを満たす場合、うつ病の可能性があります。

他の病気との鑑別診断の観点からは、特に、ほぼ毎日続いている、という部分が重要です。

躁うつ病(双極性障害)

躁病エピソードと抑うつエピソードが認められるタイプ(双極I型障害)と、軽躁病エピソードと抑うつエピソードが認められるタイプ(双極II型障害)があります。躁うつ病において、うつ状態が見られるのは、抑うつエピソードの期間です。躁病エピソードと軽躁病エピソードは、持続期間とその程度に違いがあります。

躁病エピソード:(*)のような普段とは異なる状態が、ほぼ1日中、1週間以上続き、仕事や人間関係などに著しい影響を及ぼしている。

軽躁病エピソード:(*)のような普段とは異なる状態が、ほぼ1日中、4日以上続くが、仕事や人間関係などに著しい影響を及ぼす程ではない。
(*)異常に楽しく良い気分で、気分爽快または怒りっぽくなる。更に、異常に活動的だったり、エネルギッシュだったりする。さらに、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)がある。

  1. 自分は誰より優れていると感じる。
  2. 余り眠りたいと感じない。
  3. 普段よりよく喋る、または喋り続けようとする。
  4. 次々と考えが浮かび、まとまらない。
  5. 注意散漫。
  6. (職場または学校での、または性的な)目標に向けた活動が増える、またはイライラしてじっとしていられない。
  7. 困った結果につながる可能性が高い活動(浪費や性的なことなど)に熱中する。

気分変調症

気分変調症の診断基準(DSM-5)
A. うつがほとんど一日中続く日の方が、うつの無い日よりも多く、少なくとも2年間続く病気です(子供や青年では、怒りっぽさが目立つ時もあり、少なくとも1年間続く)。
B. うつの間、以下のうち2つ(またはそれ以上)が存在します。
食欲が減っている、または増している。
眠れない、または寝過ぎる。
疲れを感じる、または気力が落ちている。
自分のことを大切に思えない。
物事に集中できない、または決断出来ない。
絶望を感じる。
C. 症状が続く2年間の間に、一度に2ヶ月を超える期間、基準AおよびBの症状が無かったことは無い。
以上のA~Cを満たす場合、気分変調症の可能性があります。

適応障害

メンタルクリニックにおいては、頻度の高い病気です。環境の変化についていく、すなわち適応していく事がスムーズに出来ない時に生じます。

症状としては、

  • 不安感
  • ゆううつ感
  • やる気の低下
  • ちょっとしたことで涙が出てくる
  • 体のだるさ
  • 動悸
  • 息苦しさ
  • 眠れない
  • 吐き気

などです。

適応障害の診断基準(DSM-5)
A. 明らかなストレスをきっかけとして、3ヶ月以内にうつなどの症状が出現し、仕事や日常生活などに影響が出る病気です。
B. (うつ病も含めて)他の精神障害の基準を満たしていない。
C. ストレスの原因が無くなれば、遅くとも6ヶ月以内には症状が無くなります。
以上のA~Cを満たす場合、適応障害の可能性があります。
このような症状でお困りの場合は、当院へご相談ください。

統合失調症

統合失調症の診断基準(DSM-5)
A. 以下のうち2つ(またはそれ以上)、それぞれが1ヶ月間ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくとも1つは1か2か3です。
1. 妄想
2. 幻覚
3. まとまりのない会話
4. ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
5. 陰性症状(感情表現や表情が乏しくなる、意欲欠如)
B. 症状が出現してから、仕事、対人関係、自己管理などの面で、病気が始まる前に出来ていたことが出来なくなっている(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
C. 症状が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち活動期の症状)は少なくとも1カ月存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)になることがある。
以上のA~Cを満たす場合、統合失調症の可能性があります。

統合失調症の症状

  • 陽性症状:普段「無い」はずのものが「有る」ようになる症状。幻覚、妄想、思考の異常(まとまりの無い会話)、行動の異常(ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動)など。
  • 陰性症状:普段「有る」はずのものが「無い」ようになる症状。感情表現や表情が乏しくなる、意欲欠如など。

統合失調症の陰性症状や前駆期のうつ症状は、抑うつエピソードと区別が困難なことがあります。

  • 前駆期(発症前の時期)に多い症状:不安やうつ症状、思考力や記憶力の低下、無口、引きこもりなど。
  • 慢性期に多い症状:陰性症状のみが顕著となる傾向。

うつの鑑別診断

うつ症状の期間だけを見ると、うつ病においても躁うつ病においても、認められるのは抑うつエピソードであり、区別はしばしば困難です。うつ病と躁うつ病の抑うつエピソードのそれぞれの特徴を踏まえた上で、抑うつエピソード以外に、躁病あるいは軽躁病エピソードが無かったか、検討する必要があります。うつ症状が年単位で続くようなら、気分変調症の可能性が有り、うつが始まる前に明らかなストレスが有ったのであれば、適応障害の可能性があります。妄想や幻覚やまとまりの無い会話などの症状が認められれば、統合失調症の可能性があります。

まとめ

うつ状態においては、感情、思考、意欲など精神の様々な機能及び身体面などの症状が認められ、学校生活や仕事や人間関係に影響が出て来ます。うつ状態が認められる主な病気としては、うつ病、躁うつ病、気分変調症、適応障害、統合失調症などがあります。うつ症状の期間だけを見ると、うつ病と躁うつ病の区別はしばしば困難です。抑うつエピソード以外に、躁病あるいは軽躁病エピソードが無かったか、検討する必要があります。うつ症状が年単位で続くようなら、気分変調症の可能性が有り、うつが始まる前に明らかなストレスが有ったのであれば、適応障害の可能性があります。妄想や幻覚やまとまりの無い会話などの症状が認められれば、統合失調症の可能性があります。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断と分類の手引き. 医学書院.
  • 大熊輝雄. (2013). 現代臨床精神医学改訂第12版. 金原出版.

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