はじめに
もしかしたら自分は愛着障害ではないかと悩んでいたり、愛着障害って何だろうと疑問を感じたりしていませんか?その様な方々のために、ここでは愛着障害がどの様な病気なのかご紹介したいと思います。この記事を読む事で、愛着障害の症状、愛着障害と愛着パターンとの関係、愛着障害の経過、愛着障害への対応を知る事が出来ます。
愛着障害とは
愛着障害は、5歳までに形成された養育者との異常な養育関係に基づく社会的機能の障害、とされています。代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第4版改訂版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth Edition (Text Revision), DSM-4-TR)においては、異常な養育関係に関連した病気として、反応性愛着障害が掲載されており、それが抑制型と脱抑制型に分けられていました。最新の診断基準DSM-5においては、反応性愛着障害と脱抑制型対人交流障害が独立した病気として掲載されています。下記の診断基準にあるように、どちらの病気に関しても、育児放棄または、養育者が頻繁に変わるなど、特定の養育者との間に、愛着の絆を結ぶ機会が持てなかったことが、病気の成り立ちの上で重要です。
反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder, RAD)
DSM-5における、RADの主要な診断基準を平易な表現で置き換えると、以下のようになります。
A. 大人の養育者に対して、
- 辛い時でも、その子供は、滅多に又は最小限にしか楽になろうとしない。
- 辛い時でも、その子供は、滅多に又は最小限にしか楽になることを喜ばない。
B. 以下のうちの少なくとも2つが当てはまる。
- 誰ともほとんど、話したり遊んだりしない。
- 楽しそうなことがほとんどない。
- 大人と一緒にいると、なぜか分からないがイライラしたり、辛かったり、怖かったりした記憶がある。
C. 育児放棄または、養育者が頻繁に変わるなど、特定の養育者との間に、愛着の絆を結ぶ機会が持てなかった。
D. その障害は、5歳以前に明らかである。
以上のA〜D全てが当てはまる時、反応性愛着障害の可能性があります。
脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder, DSED)
DSM-5における、DSEDの主要な診断基準を平易な表現で置き換えると、以下のようになります。
A. 以下の内、少なくとも2つが当てはまる。
- 見知らぬ大人にも躊躇せずに近づき、話しかける。
- 見知らぬ大人に対する、過度に馴れ馴れしい言動。
- 不慣れな状況でも、大人の養育者から離れても振り返ったりしない。
- 見知らぬ大人に躊躇なく着いて行こうとする。
B. 育児放棄または、養育者が頻繁に変わるなど、特定の養育者との間に、愛着の絆を結ぶ機会が持てなかった。
以上のAとBが当てはまる時、脱抑制型対人交流障害の可能性があります。
愛着障害と愛着パターン(愛着スタイル)の関係性
愛着障害は病名なのに対して、愛着パターンや愛着スタイルは病名ではなく、愛着の状態を表す用語です(「愛着スタイルとうつ病」)。愛着障害(RADとDSED)と愛着パターンや愛着スタイルの関係性ですが、愛着障害と愛着パターンが主として乳幼児に対して用いられるのに対して、愛着スタイルは主として思春期、成人期に対して用いられます。そこで、ここでは愛着障害と愛着パターンの関係を取り上げます。愛着障害の有無と愛着パターンを同時に調べた研究は限られていますが、ある研究においては、新奇場面法において、通常用いる4つの型(安定、不安ー抵抗、回避、混乱)に加えて、愛着行動を殆ど起こさないため愛着パターンの判定が困難な一群を分類不能型としていますが、RADは主として、混乱型あるいは分類不能型でした。それ以外の愛着パターン(安定型、不安ー抵抗型、回避型)は、特定の養育者との間に選択的な愛着が形成されているパターンであり、RADにおいて選択的な愛着が形成されていないことを示唆します。一方、DSEDでは、特定の愛着パターンとの関連が認められず、DSEDの成り立ちに愛着の問題以外の因子の関与が示唆されます。
愛着障害の経過
RADとDSEDの経過を長期間フォローした研究は非常に限られています。養護施設で養育されている生後30か月未満の子どもを無作為に2群に分け、一方は里親の元で生活し、もう一方は養護施設で生活を続けてもらい、反応性愛着障害の抑制型と脱抑制型(それぞれDSM-5のRADとDSEDに相当)の傾向を、生後30、42、54ヶ月、8年まで、継続的に調べた所、抑制型の傾向は、里親の元で生活したグループでは、急速に改善し、30ヶ月後には、養護施設で養育された経験の無い子どもと大差無いレベルになりました。脱抑制型の傾向も、里親の元での生活で改善の傾向は見られましたが、抑制型の場合ほど劇的ではなく、養護施設で養育された経験の無い子どものレベルまで改善することはありませんでした。つまり、特定の養育者との間に、愛着の絆を結ぶ機会が持てる様になると、RADは速やかに改善しますが、DSEDは部分的な改善に留まり、愛着の問題以外の因子の関与が示唆されます。このことから、少なくともRADにおいては、養育環境の見直しが必要と考えられます。
まとめ
特定の養育者との間に、愛着の絆を結ぶ機会が持てなかった場合、反応性愛着障害(RAD)や脱抑制型対人交流障害(DSED)などの精神障害となる可能性があります。RADは、主として、混乱型あるいは分類不能型の愛着パターンを取る傾向が強く、選択的な愛着が殆ど形成されていないことが示唆されます。一方、DSEDは、一定の愛着パターンが認められないとされており、愛着の問題以外の因子の関与が示唆されます。特定の養育者との間に愛着の絆を結ぶ機会が持てる様になると、RADは速やかに改善しますが、DSEDは部分的な改善に留まると報告されています。このことから、少なくともRADにおいては、養育環境の見直しが必要と考えられます。
参考文献
- 高橋和巳. (2016). 「母と子」という病. ちくま新書.
- Charles H. Zeanah and Mary Margaret Gleason. (2015). Annual Research Review: Attachment disorders in early childhood – clinical presentation, causes, correlates and treatment. J Child Psychol Psychiatry. 56(3): 207–222.
- Charles H. Zeanah, Tessa Chesher, Neil W. Boris, the American Academy of Child and Adolescent Psychiatry (AACAP) Committee on Quality Issues (CQI). (2016). Practice Parameter for the Assessment and Treatment of Children and Adolescents With Reactive Attachment Disorder and Disinhibited Social Engagement Disorder. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 55(11): 990–1003.
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