はじめに
この記事を読んで頂いている方は、ご家族が前頭側頭型認知症だと告げられ、前頭側頭型認知症とはどのような病気なのか心配していらっしゃるのではないでしょうか。またはご家族がもしかすると前頭側頭型認知症なのではないかと不安に感じている方がいらっしゃるかもしれません。そのような方のために、この記事では前頭側頭型認知症の主な症状についてご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。
前頭側頭型認知症について
前頭側頭型認知症は、臨床症状としては、性格変化や行動異常が顕著であり、画像検査では、前頭葉、側頭葉の選択的な萎縮が特徴です。
前頭側頭型認知症の原因は不明ですが、タウ蛋白やTDP-43という異常蛋白が脳内神経細胞に異常に蓄積するということが分かっています。
我が国においては、認知症専門外来での調査によると、前頭側頭型認知症は認知症全体の2.6%と比較的稀な疾患ですが、65歳未満では14.7%、65歳以上では1.6%と、若年発症の認知症においては比較的頻度の高い疾患であると言えます。
前頭側頭型認知症の症状について
行動の脱抑制:発病初期より、本能の赴くままに行動するような「我が道を行く行動」が出現し、礼儀や行儀作法が失われ、窃盗や盗食などの逸脱行動や社会的な規範を破る行動や向こう見ずな運転やギャンブルなどの衝動的な行為、さらには列に並んで待てないとか人に過剰に接近するなどの不作法な行為や身だしなみに無頓着になることがあります。
思いやりや共感の欠如:他者の痛みや悩みに対する傷つける様な発言や無視、あるいは冷淡さや視線を合わせることの欠如を指す。
アパシーまたは無気力:意欲や興味の喪失あるいは、横になる時間が増えるなど行動量の減少として現れます。
常同、強迫/儀礼的な行動:常同行動とは同じことを繰り返すことですが、叩く、こする、引っ掻くなどの単純な動作を繰り返したり、溜め込む、物を並べる、常同的周遊と言って毎日同じコースを散歩したり、時刻表的生活と言って毎日同じ時刻に同じ行動をするような、より複雑な行為が見られたり、同じ単語や話を常習的に繰り返したりします。
口唇傾向、食行動の変化:口唇傾向とは、何でも口の中に入れる傾向のことであり、食行動の変化は、甘い物に対する欲求の増大や過食などの形で現れます。
社会的認知およびまたは実行機能の顕著な低下:社会的認知とは、他人の表情の意図を読み取ったり、他人の気持ちを汲み取ったりすることで、実行機能とは、問題点を分析し,解決策を考えたり,計画を立てたり能力のことで、これらの能力が顕著に低下します。
発語量、喚語、呼称、文法、または語理解の形における、言語能力の顕著な低下:前頭側頭型認知症の言語障害型(下記参照)では、徐々に進行する失語症(言葉の理解や表出が困難になる言語機能障害のこと)を示します。何か言いたい時に言葉が出てこない喚語困難が見られます。言葉の意味や物の名前などの知識が失われるため、物の名前が言えなかったり、言われた物を選び出せなくなります。発語量が減少し、会話のリズムやアクセントがおかしくなります。
その他:病気の初期から病識(自分が病気であるという認識)が欠如していることも重要です。また、学習や記憶や知覚運動機能が比較的保たれている傾向があります。
前頭側頭型認知症の診断について
前頭側頭型認知症の診断基準をご紹介します。代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)では、以下のような状態を前頭側頭型認知症と呼びます(平易な言葉に置き換えてあります)。
A.認知症の基準を満たす。
B.その障害は潜行性に発症し緩徐に進行する。
C.(1)または(2):
(1) 行動障害型:
(a)以下の行動症状のうち3つ、またはそれ以上:
i. 行動の脱抑制
ii. アパシーまたは無気力
iii. 思いやりの欠如または共感の欠如
iv. 常同的または強迫的/儀式的行動
v. 口唇傾向および食行動の変化
(b)社会的認知およびまたは実行能力の顕著な低下
(2) 言語障害型:
(a)発語量、喚語、呼称、文法、または語理解の形における、言語能力の顕著な低下
D.学習および記憶および知覚運動機能が比較的保たれている。
E.その障害は脳血管疾患、他の神経変性疾患、物質の影響、その他の精神疾患、神経疾患または全身性疾患ではうまく説明されない。
A〜Eが当てはまる時、前頭側頭型認知症の可能性があります。
さらに、
確実な前頭側頭型認知症と診断するには、以下の(1)または(2)が満たされる必要があります。それ以外は、前頭側頭型認知症疑いということになります。
(1)家族歴または遺伝子検査から、前頭側頭型神経認知障害の原因となる遺伝子変異の証拠がある。 (2)神経画像による前頭葉およびまたは側頭葉が突出して関与しているという証拠がある。
まとめ
前頭側頭型認知症は、性格変化や行動異常が顕著であり、前頭葉、側頭葉の選択的な萎縮を特徴とする原因不明の認知症疾患です。認知症全体で見ると稀な疾患ですが、若年発症の認知症においては比較的頻度の高い疾患です。症状としては、脱抑制的行動、無気力、共感性の欠如、常同行動、食行動の変化などが見られます。
参考文献
- 品川俊一郎. (2018). 前頭側頭型認知症. 診断と治療のABC, 132; 109-114.
- 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
- 樋口輝彦, 市川宏伸, 神庭重信, 朝田隆, 中込和幸. (2016). 今日の精神疾患治療指針第2版. 医学書院.
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