アルツハイマー病の症状について

はじめに

この記事を読んで頂いている方の中には、最近物忘れが多くなった気がして、自分はアルツハイマー病なのではないかと気になっている方や、ご家族がもしかするとアルツハイマー病なのではないかと不安に感じている方がいらっしゃるかもしれません。そのような方のために、アルツハイマー病の主な症状についてご紹介したいと思います。病気について正しい知識を得ることは回復のために重要です。

アルツハイマー病とは

我が国で認知症患者数は462万人と推定されていますが、その約60%がアルツハイマー病であり、認知症の原因疾患として最も頻度の高い疾患です。65歳未満に発症する初老期発症型(早発型)とそれ以降発症の老年期発症型(晩発型)に分けられます。また、遺伝性の家族性アルツハイマー病も稀にありますが、我が国では遺伝性ではない孤発性が殆どです。

アルツハイマー病の診断

アルツハイマー病の診断基準をご紹介します。代表的な精神疾患の分類として世界的に使用されている、精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition, DSM-5)では、以下のような状態をアルツハイマー病と呼びます。

アルツハイマー病の診断基準(DSM-5)
A. 認知症の基準を満たします。
B. 2つまたはそれ以上の認知領域で、障害は潜行性に発症し緩徐に進行します。
C. 以下の確実なまたは疑いのあるアルツハイマー病の基準を満たします:
確実なアルツハイマー病は以下の(1)か(2)のどちらかを満たしている場合で、そうでなければ疑いのあるアルツハイマー病と診断されます。 
(1)家族歴または遺伝子検査から、アルツハイマー病の原因となる遺伝子変異の証拠がある. 
(2)以下の3つ全てが存在している: 
(a)学習及び記憶、および少なくとも1つの他の認知領域の低下が認められる。
(b)着実に進行性で緩徐な認知機能低下があって,安定状態が続くことはない。
(C)混合性の病因の証拠がない(すなわち,他の神経変性または脳血管疾患がない,または認知の低下をもたらす可能性のある他の神経疾患,精神疾患,または全身性疾患がない).
以上のA〜Cを全て満たす時、アルツハイマー病の可能性が有ります。

アルツハイマー病の症状

アルツハイマー病の症状(初期)

学習及び記憶の障害で始まることが多く、続いて実行機能の障害、見当識の障害、失行、失認などの症状が加わると、日常生活や社会生活に支障を来す様になり、その時点で認知症と診断されます。

学習及び記憶の障害

典型的には、健忘型、すなわち、記憶と学習の障害で始まることが多いとされています。

  • 同じことを何度も言う。
  • しまった物が見つからない。
  • よく知っている人の名前が出てこない。

実行機能の障害

  • 献立を考えて必要な食材を買い複数の料理を作る
  • 電話で用件を聞きメモをとって課題を実行する
  • お金を振込む、などに時間がかかったり、間違いが目立つようになります。

見当識の障害

時間や場所や人物に関する、自分が置かれている状況を認識する能力を見当識と言いますが、時間や場所の認識の間違いが認められるようになります。

失行、失認

失行:身体的に麻痺などは無いにも関わらず、一連の動作が出来なくなることで、リモコンが使えない、お湯が沸かせない、切符を買って電車に乗ることが出来ない、などです。

失認:一つまたは複数の感覚によって、対象を認識出来なくなることで、迷子になる、血縁者の関係を間違える、左右を間違える、などです。

アルツハイマー病の症状(中期以降)

前述の学習及び記憶の障害の程度がより顕著となるとともに、手段的日常生活動作(Activities of Daily Living, ADL)や基本的ADLに障害が見られるようになります。

手段的ADLの障害

独居機能を測る指標であり、認知症による障害は,介護保険主治医意見書の認知症高齢者の日常生活自立度判定基準でランク II に相当します。

  • 電話の使用
  • 買い物
  • 家計管理
  • 乗り物の使用
  • 服薬管理
  • 食事の準備
  • 掃除などの家事
  • 洗濯、など。

基本的ADLの障害

屋内生活の基本動作であり,移動やセルフケアの能力を測る指標です。認知症による障害は,介護保険主治医意見書の認知症高齢者の日常生活自立度判定基準でランク III のレベルに相当します。

  • 移乗
  • 移動
  • 階段昇降
  • 食事
  • 入浴
  • トイレ動作
  • 排尿コントロール
  • 排便コントロール
  • 更衣
  • 整容、など。

認知症のために手段的 ADLや基本的ADL に障害が及んでいる場合,実行できない機能を補完するために,介護保険を利用したホームヘルプの利用が勧められます。

周辺症状(認知症の行動・心理症状)

経過中に不安,抑うつ,不眠,興奮, 易怒性(怒りっぽくなる),被害念慮(嫌がらせを受けているのではないかと感じる),徘徊,幻覚,妄想などの 行動や心理についての症状が出現することがあります。これを周辺症状(認知症の行動・心理症状)と呼びます。

中核症状:認知機能障害。学習及び記憶の障害や手段的ADLや日常的ADLの障害。

周辺症状:不安,抑うつ、興奮、徘徊,幻覚,妄想などの行動や心理についての症状。

まとめ

アルツハイマー病の初期には、学習及び記憶の障害や実行機能の障害が徐々に認められるようになりますが、社会機能は保たれています。中期になり、手段的ADLや日常的ADLに障害が及ぶようになると、独居や日常生活が困難となります。また、不安,抑うつ、興奮、徘徊,幻覚,妄想などの行動や心理についての症状(周辺症状)も認められます。

参考文献

  • 高橋三郎. 大野裕他. (2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.
  • 神崎恒一 (2012). アルツハイマー病の臨床診断. 日本老年医学会雑誌, 49, 419-424.
  • 大熊輝雄. (2013). 現代臨床精神医学改訂第12版. 金原出版.

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